昔、昔の話ではありませんが――――とある王様がおりました。その王様は東京の氷帝学園中等部を支配しておりました。彼は、生徒会長として生徒の上に立つだけでは収まらず、氷帝の部活動の中心のテニス部の部長として200人を越える部員の頂点として降臨していました。さらに彼はあの有名な跡部財閥の御曹司であり、その上秀でた容姿を持っており………天は彼に二物も三物もあたえているんじゃないかという存在でした。


そして、そんな彼には一人のお姫様がおりました。いえ、彼女は立場が姫のようなだけで実際は普通の少女でしたがね。彼女の名前は名字名前といいまして、ごく普通といいますか所謂庶民でございました。世界三台珍味はノー体験。テーブルマナー、ファミレスに必要ですか?ざっくばらんに言えば彼女の生活はそんな感じでした。驚くことなかれ、名門の氷帝学園といえども真の大金持ちなど一握り、残りは庶民に毛が生えたようなものたちばかりだったからです。


そんな彼女と彼の馴れ初めは意外や意外、ごくごく普通でした。同じクラスで席が隣、きっかけは本当に普通でした。ただ、何故だかわかりませんが……この二人、互いを知れば知るほどお互いに好きになっていき……何時の間にやら二人は氷帝の名物カップルとなっていたのでございます。


そして、所謂名物カップルな二人でしたがお姫様の立場である名字名前という少女にはとてもとても大きな悩みがありました。そうそれは、王様こと跡部景吾が格好良過ぎることにありました。何故なら彼は一中学生という立場でありながら個人のファンクラブを持っておりました。前述の通り彼は人気の高いテニス部の頂点に立っており、さらには家柄、容姿が優れていたからです。何か足りない?え、人柄?なるほど………人柄、が何故入っていないかといいますといやはやそれはもう人それぞれの評価があるからで御座います。本題に戻りましょうか、そこでお姫様こと名字名前……あまりにもしつこいですか、そうですか、では、今後は少女と呼びましょう――――は考えました。何を?えぇ、それは勿論……王様こと跡部景吾――――次からは彼は王様にしましょうかね――――のファンを減らすことです。え?具体的には何をしようというのかですって?いやはやそれはなかなか一言では説明できませんね。ですから、これから順に見ていきましょう。


おやおや、少女が王様を連れて街を歩いております。王様は歩くことが珍しいのか先程からずっと珍しそうに周りをきょろきょろと観察しながら進んでおりますね。そして、少女はといいますと……いやはや、どことなく表情が曇っております。それもそのはずでしょう。王様は歩くだけで、女の子たちの視線を掻き集めておりましたから。しかしながら、少女には慣れ過ぎて気付いていないことがありました。歩幅の全然違う二人が何故隣同士で手を繋いで歩い……あ、少女の目が輝きました。目当てのものを発見したようです。そこへ少女は王様を引っ張っていきます。そんな一生懸命な少女を見て王様は呆れたような表情をし、ふと柔らかく笑いました。それはもう周りの人間が老若男女問わずに溜息をついてしまうくらいにそれは美しいものでした。が、少女は気付かずに―――――――突き進んでいきました。そう、コンビニエンスストアに。少女は考えたのです。王様が、庶民の店に行くのを見ればきっとファンが減ると。


「景吾くん、どう?これがコンビニだよ」

「……俺様を連れて行きたい場所があるというから……付いて来て見れば……ったく、ん?なんだこの店……0が一つ以上足りなくないか?」


王様はきょろきょろとしながら少女と手を繋いで店内をぐるりと徘徊しだします。その瞳はどことなくキラキラと輝いておりました。そして、とても楽しそうでした。少女の顔はまたどんよりとしています。少女は憂鬱でした。王様の新たな魅力を発見してしまい、さらにそれを店内に居た何人かに見られてしまったからです。王様はそんなことも露知らず籠を使わずに商品を手に持ち………あ、危ない。王様、持ち過ぎです。散らばった商品に王様唖然。少女はクスリと笑います。


「……籠、あるよ」

「―――――黙れ」


耳まで赤くなる王様を見て少女は嬉しそうにしながら片付けを始めました。少女が膝をつき商品を集め出すと、王様も同じように行動しました。


「景吾君!いいよ、私やるから」

「あーん?名前だけにやらせるわけねぇだろ」


台詞とは裏腹に王様は真っ赤です。あぁ、しかし残念少女は俯いています。それどころではありません、少女の耳も真っ赤です。そして、周りが彼等を見て頬を染めます。なんという、兵器のようなカップル。少女の作戦はある意味成功ですが少女はそれを知らずに失敗だと思い込み次の作戦に出ることにしました。あぁ、ちなみにこの後王様はブラックカードをレジにて出したり通常営業だったことをご報告いたします。


少女は、考えました。王様に下賎な仕事をさせれば、きっとファンが減るのではないかと………というわけで少女は王様を連れて氷帝にある馬小屋を訪れました。馬術部がある氷帝にはそんなものまであったのです。少女は王様に声をかけます。


「一緒に餌をあげようよ」


前回の失敗(?)を生かして少女は今王様と二人きりでした。王様は彼女の思惑なんかまったく知ることも無く人参を手に取りました。少女はニヤリと笑いましたが……次の瞬間愕然としました。王様はまず馬に触れました。彼のオーラにやられたのか馬は大人しく王様に顔を撫でさせます。なんと絵になることでしょう!片手に人参持ってますが。


「ロクボキナとトンイポムーチャ……と言ったかまぁまぁな奴等じゃねーか」


王様は彼等が気に入ったのか上機嫌です。ロクボキナは青毛、トンイポムーチャは白馬、彼等と王様は大変絵になりました。そして時折視界に入るオレンジの人参がさながらアクセントになりまるで一枚の絵画のようでした。少女は泣きたくなりました。何をやっても王様が格好良いからです………ちなみに彼女は自分が恋する乙女だということを忘れているようですね。いえいえ、言うではございませんか……恋は盲目、ってね。何故なら馬の名前は――――――おっと、これ以上は言えませんね。とにかく、少女はまた作戦を失敗だと思い込み、新たな作戦を練りにかかるわけでございます。おや?そんな彼女を見て王様は目を細めています。ははーん、王様、インサイトで全てお見通しですかそうですか。愛しちゃっていますね……なのに彼女に気付かれてないと、おお!なんたる悲劇!なんたる喜劇!――――……後が怖いのでこのあたりにしておきましょうか。馬小屋から出ると、突如少女が目を輝かせました。おやおや、少女が何か見つけたようです。子猫です。迷子の子猫さんではないでしょうか?


「景吾君!子猫だ、子猫!」

「……見ればわかる」

「あ〜、可愛いなぁ……どこからきたんでちゅか〜?」

「!!」


おや、王様の様子が変です。少女を見ながらそれはもう真っ赤でございます。あぁ、ギャップですか。それとも、萌えですか。そうですか、萌えですか。何はともあれ男の子って大変ですね……


「かわいいでちゅね〜」

「……おい、名前――――俺様に寄越せ」

「へ?いいよ」

「…………よちよち、かわいいでちゅね〜………こ、これでいいのか?」

「!!!!」


…………見ているほうが恥ずかしいのですが、この二人。はてさて、では次にいきましょうか。なんだか将来子供が出来たときの二人はこうなるんだろうなという未来予想図のようで大変こそばゆいのでしかたありません。あ、次でした、次。ところ変わって、氷帝学園の文化祭の話に参りましょうか。氷帝学園にはこの時期文化祭と言いますか学園祭がございまして……そして、最後には定番のキャンプファイヤーがあるでございます。が、この王様実はキャンプファイヤーに参加したことが御座いません。何故なら、彼はキングでしたから。えぇ、実行委員というか長というか………まぁ、そんな感じの立場に普段いるので一般の生徒とは違い後夜祭に参加できていなかったり………が、しかし最終学年、そして最愛の彼女がいるとまた違ってきますよね。果てさて、どうなることやら。


「――――景吾君、今年も参加しないの?」

「………ん?後夜祭か………なんだ、名前、お前――――俺に参加して欲しいのか?」

「あ、あ、当たり前じゃないっ!景吾君の馬鹿!!」


あ、王様……今、きゅんってしましてね。少女は、ツンと別の方向を向いちゃったのでまた気付いてませんが……王様……めろめろ(死語)ですね。プリプリ怒ってる少女は可愛いですか、そうですか。王様は口を開きます。その声が普段より甘いことに少女は気付いているのでしょうか?


「おい、名前……」

「………」

「はぁ、わかったよ―――――今年は参加する、ぜ」

「!!!!!」


少女が王様の方向を向きました。そして、笑顔。満面笑顔にどこからか変な音が聞こえます。あ、王様抱きしめました。では、先程の音は王様からでしょう。いや、わかりますよ……ギャップ萌えってありますもんね。


そして、暦は移り変わりまして――――――氷帝学園祭はいつものように王様主体で行われました。え、少女はって?勿論、王様の補助です。補助と言っても樺地君がいますから、彼女はまあ癒し役と言いますか……誰の、それは勿論王様のです。なんでそんなことに――――おや、時間ですね。なんの?それは、文化祭後の定番のマイム・マイムの時間ですよ。おや、生徒がざわついてます。何故でしょう?あ、王様初参加ですもんね。と、いうわけでマイム・マイムがスタートなわけで………


「おい、名前……お前の隣は俺と樺地で確保した――――かまわないか?」

「……景吾君の隣が女の子なのやだ」

「―――――わかった、おい!忍足来い!」


名前を呼ばれた忍足君は困惑気味です。だって、マイクで名指し。そんな忍足君の一言。


「え、なんで?」


巻き込まれましたね、ドンマイ。そして、やたら一部豪華な面子でのマイム・マイムが今度こそスタートなわけです。あの、定番ソングがかかります。初参加な王様なわけですがさすが王様危なげないです。皆、キャンプファイアーに近づき離れ……普通にマイムマイムなわけです。王様、なんで貴方そんなに得意げなんですか。そして、そんな彼になんで少女は見惚れるのでしょう。私は、おや忍足君にも理解できないようですね。彼の表情も怪訝そうです。しかし、音楽は進みます。皆でキャンプファイヤーを取り囲み、まわり、踊る。や、王様、絶対、貴方そんな顔する必要ありませんからね!周りを見てください。皆、踊れているでしょう?そして、少女、なんで見惚れるんですか!?本当に意味がわかりません。そして、音楽が終わります。おや、二人向かいあって話し出しましたね。どれどれ、どんな会話をしているのでしょうか?


「景吾君、流石すぎるよ!まさかマイム・マイム踊っててもカッコイイとか!」

「ハッ、俺様だから当たり前だろ?しかし、良かったぜ……お前の隣が樺地で、他の男なら俺は……」

「――――景吾君……!」


聞かなければよかったですね、これ。あ、近くにいた忍足君が偶々一部始終を見てしまったようですね。死んだ魚のような目をしてます。うっぷ、なんて音も聞こえました。甘いですよね、ドンマイです。


「あ〜、もう……なんや、あの馬鹿ップル!!歩く公害だってことええ加減自覚せんかい!そりゃあ、最初は納得できてへん女の子たちもいたけどな……もう、皆諦めの境地にいるんやから」


……なるほど、少女の悩みなんて実は最初から無駄だったんですね。何はともあれ、この二人は幸せみたいです。つまり、お話は終わりということです。さぁ、〆ますか………



――――こうして、王様と少女はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。


とってんぱらりのぷぅ
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