*Side 名前*

男の人は、皆怖い……

末っ子で兄弟は皆男子、お兄ちゃん達から"男の人は狼なんだぞー"とか"男は変なことばっかり考えてる奴らなんだぜ〜"なんて幼い頃から聞いてきたせいか私は極度の男性恐怖症なのである。

それを理解してくれているのは、幼馴染のみーちゃんだけ……


「名前、大丈夫? 今日も顔色悪いよ……?」

「う、ん……でも逃げてばかりっていうのは、良くないと思う、し……」

「よし! よく言った!」


グッと握り拳を作るみーちゃんに、私は何度心強く思ったか……! 私、みーちゃんがいなかったらこの氷帝学園に通っていないよ!!


「あ、跡部様」

「ッ!!!!」


何気ないみーちゃんの一言に、私の肩は上下した。ギュッとみーちゃんのスカートを握りながら、私は前へと向く。

私達の目線の先には、忍足先輩と何気ない話をして笑っている跡部先輩がいた。綺麗な金髪に、泣きぼくろが特徴的な彼……最初見た時、頬が熱くなって心臓が大きな音を立てた事を憶えている。

みーちゃん曰く、それは恋だって言うけれど……私は恋愛とかよく分からないから……


「おはようございます! 跡部様!」

「ッ!! お、おう……」


元気よく挨拶できるみーちゃんが凄い……!

そう思っていると、跡部先輩からも返事が返ってきた。なんか、いいな……私はなかなかできないよ……


「ホラ! 名前も挨拶しなよ」

「ででででで、でも……!!」

「おはようって言うだけじゃない!」


ホラホラ! と急かされて、何故か私は跡部先輩たちの前に立っていた。

うわあああああ…………!!!!


「お、お、お、お……」

「な、なんだよ……」

「お、おはよう、ごごごご、ございますぅぅぅぅ〜〜!!」


今、跡部先輩がどんな顔しているかなんて分からない。言い逃げだ、なんて後で言われる事くらい分かっている!

それでも、私はあの場にいるのは耐えられなかったんだもん……!!

そう心の中で叫びながら、私はバタバタと自分の教室へと入って行くのだった。

あー! 良く考えたらみーちゃんと同じクラスじゃん!! どの道、次の休み時間に何かしら行ってきそうだな……ハァ。



**



*Side 忍足*

「良かったやないか跡部〜、気になってる子が挨拶してきてくれてなぁ〜」

「お、おう……!」


グッと握り拳を作って目を輝かせている跡部。こんな奴が、あの氷帝テニス部の頂点に立ってるなんて信じられへんわ……

跡部曰く、極度ではないものの……女の子を前にすると上がり症になるらしくあまり関わろうとしてないんやて。部活中もフェンス越しにいる女子たちに"雌豚"呼びをし、遠巻きに見てもらえるように振る舞っているのも、その上がり症があるが由縁らしい。

そんな女子に苦手な跡部にも、とうとう春が舞い込んできたんやで! 今日の朝、オドオドしながら挨拶をしてきた俺らの一個下の名前ちゃんや!

跡部とは長い付き合いになるが、アイツの口から気になる子の話を聞いた時は飲んでいた麦茶吹き出しそうになったもんや!


「ほな、次の授業の準備しようや」

「ああ……!」


ったく、今朝の俺様オーラがまるで嘘のように消えてる……全く違う跡部の様子を、ただただ傍観して笑っていられるっていうのも、同じクラスになった俺の特権やな。

いやー、朝からおもろいモン見させてもらったな〜!



**



*Side 日吉*

今は休み時間、次の授業が終われば昼休みに入る。

この限られた休み時間……俺は教室近くにある空き教室へと足を踏み入れていた。そこにいるのは、跡部部長を除いたテニス部レギュラー陣。


「なあ、そろそろ手を貸してやろう思ってるんやけど……」

「それ賛成だC〜! あの二人、見ていてじれったいって言うかー」

「二人とも、素直じゃないだけだと思うけどな。激ダサ」

「でも宍戸さん、名前さんは極度の男性恐怖症ですし……」


ま、俺たちがどうして集まっているのか……大体の奴は想像できたんじゃないか?

テニス部部長の跡部さんと、隣のクラスにいる名前って女子生徒。

この二人を、引き合わせて付き合わせてしまおうって作戦を立ててる所だ。


「そこで、や。今回は強力な助っ人を呼んできたで!」


キラーン! といやらしく輝く忍足先輩のメガネに、俺は"ぅわあ……"なんて言いそうになった口を押さえる。

そんな行動を起こしているのと同時に、この空き教室の扉が開く。


「お、来よったで!」

「あー! 皆さんお揃いで、やっぱり考えてることは同じなんですねー!」

「せやで! ほな、早速打ち合わせといこか。みーちゃん」

「はい!」


明るい声がこの空き教室内に響く。俺はこの教室に入ってきた人物を見て、パチクリと瞬きをした。

いや、なんでお前ここに来たんだよ……!!



**



*Side 名前*


「みーちゃんの馬鹿……!」


私は涙目になりながら、弁当箱を抱えて長い階段を上っていた。今はお昼休み。いつもと同じようにみーちゃんとご飯を食べようとしたら……


『ゴメン! ちょっと呼びだされちゃったから遅れる! だから先に屋上で待っててくれない?』


手を合わせてウインクまでされたら、流石の私は了解の声しか上げられないわけで……

ハァ、と重い溜め息をつきながら屋上の扉を開いたら……


「ッ!! お前……」

「あ、跡部先輩……!!」


なななな、なんで跡部先輩がいるの!!?

今の私は沸点通り越して頭の上から湯気が出ているに違いない……!


「すすすすす、すみません!! まさか先輩がいらっしゃるとは……! で、では……!!」

「ちょッ……待てよ!!」


逃げるように屋上の扉に手をかけると、必死な先輩の声が聞こえてきた。跡部先輩が必死そうな声を上げるなんて思わなくて、私はピタッと動きを止めてゆっくりと振り向く。

後ろには、お弁当箱であろう風呂敷に包まれている四角い箱を横に置いて駆け寄ってくる先輩の姿が目に飛び込んできた。


「な、なんで、しょ、しょうか……!」

「お前、人待ってるんだろ……? こ、こっち……来いよ」


なんで跡部先輩も必死になって言うの!? あれ? 私の知っている跡部先輩と違う……?


「えっと、先輩も……待ってるんです、か?」

「ああ……いつも部活メンツと一緒なんだが、あいつら来るのが遅くってな……ひ、暇だった、んだよ」


なんだか私以上に必死になって話している先輩に、自然と私はオドオドした態度が薄れていくのを感じた。緊張しているのは、私だけじゃなかったんだ……


「なら、部活仲間さんが来るまで……私も一緒に待ってます」

「ッ!! だが、確か名前って男が苦手なんじゃ……」

「へ!? ななな、なんで私の名前、知ってるんですか!?」


しかも私の名前もちゃっかり知ってるし……! 私達、初対面のはずだよね……!?

こうして男の人と話をすること自体、珍しいって言うのに……!!


「ッッ!! そ、それは……お、忍足たちから聞いてて、だな」

「そ、そうでしたか……」


アハハハ、そうだよね……わざわざ跡部先輩が私の事を直々に知っているわけないよね! ビックリしたー!


「な、なあ!」

「はい!!」


いきなり呼ばれるものだから、私も勢い余って声を上げてしまった……! うわああああ! すみません先輩!!


「あ、アドレス……!」

「は、はい……!!」

「アドレス、聞いて、良いか……?」

「はい!! 勿論で…………え?」


一瞬だけ、私と先輩の間に流れている空気が止まったような気がした。えーっと、私の耳は正常に動いてるよね……!? 大丈夫だよね!!


「だ、駄目か?」

「いえいえいえいえいえ! 全然大丈夫ですよ!!」


いきなり呼ばれたかと思ったらアドレス交換をすることになりました。まさかの展開過ぎて私の頭は付いて行けません。みーちゃん、早く来てぇぇぇぇ〜〜〜!!

だけど、私の心の叫びは虚しく、お昼休み終了のチャイムがなってもみーちゃんが来ることはありませんでした。

それは跡部先輩も同様で、部活メンバーが来なかった事に疑問を抱いている様子。でも、今日は来なくてホッとした。だってだって……あの跡部先輩と話をして、挙句の果てにはメアド交換したなんて……!

経緯なんて説明できるわけがないよ……!



まあ、こんな妙な展開ではあったけれど……これをきっかけに私と跡部先輩の交流が始まったのは言うまでもない。

そして……私達が屋上で鉢合わせるように段取りをした忍足先輩たちやみーちゃんは、給水塔の裏で私達の様子を一部始終見ていたんだとか。

そのことを私たちが知るのは、また別の話になる……
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