跡部景吾という男はどこまで格好良くいられるんだろうか、私、名字名前はそんな疑問を抱いた。
「ねえ、宍戸どうだと思う?」
「―――俺が知るかよ」
「じゃあ、ジロちゃんは?」
「ZZZ」
「ありゃま、寝てる」
私の知的好奇心を擽る男、跡部景吾、彼は何故あそこまで完璧なのだろうか。
美しい容姿、
優れた肉体、
頭脳明晰、
すべてが雄として勝れていた。
それは、もう、歴然と。
「――――おい、雌猫が何のようだ」
「あら、酷い……私は一応生徒会の一員なのに」
「ちっ」
跡部景吾は完璧だ、ミスをしない何故か………それは………
「出てけよ」
「見てるだけ、いいじゃない」
「ちっ」
時間が惜しいのだろう、跡部は諦めて――――彼には似合わない言葉を紡ぎだした。発生練習から始まり、早口言葉………あの跡部がカエルぴょこぴょこみぴょこぴょことか言ってるのだ………流せるものならネットにでも流してしまいたい、が、そんな馬鹿なことはしない。あ、隣の客に移った……さらには東京特許許可局局長……もう、なんて意外な姿なんだろうか。
そして、それが終われば―――
綺麗なクィーンズ・イングリッシュで唄うようにマザーグースを口ずさむ。
tongue-twister、英語の早口言葉だ。
マザーグースの一節。ストーリーなんて無いに等しい舌のための話。貝殻の話や、唐辛子、バターが苦い話。本当にストーリーなんて無い。ただの舌のための言葉。
「―――なんだお前、その顔………俺様に欲情でもしてるのか?」
「あら……そんなに可笑しいこと?生物の雌が優秀な雄を求めるのは当然のことでしょう」
「ハッ、俺様に釣り合う自信があると?」
「自然界では選ぶのは雌よ」
「―――ここは人間界だぜ?」
「そうね」
本を開く。タイトルは星の王子様。
――――あぁ、そうだ王子様はなんと言っていただろうか―――――
「―――ねぇ、キスしてよ跡部景吾……貴方はキスがうまそうだわ」
「ハッ、そりゃあまた色気も糞もねえ言葉だな」
「じゃあ言うわ、貴方の舌使いを体験してみたい」
「…………ますます色気がねえ」
「そうかしら?」
――――じゃあ、なんで貴方は私との距離を詰めているの?―――――
………なんて、それは野暮な疑問かしら。
生徒会室には、私と跡部景吾しかいない。
――――それは、なんでかしらね?――――
風が何処からか金木犀の香りを運んでくる。
――――あぁ、今日は何日だったかしら?――――
そして、私は跡部景吾に私を捧げるのだ………
――――ハッピーバースディ、なんて子供染みた言葉を噛み殺して。