「え!!何!?このダンボールの山!!」

部室に入った名前を迎えたのは、山のように積み上げられたダンボールの山だった。

「あ!おい、名字も早くコッチ来いよ!仕分け始まってるぜ!」

「は…?仕分け?部活は?」

「今日は部活は休みやで」

部室の床に座り込んでダンボールの中から綺麗にラッピングされた箱達を取り出す向日と忍足。それを見た名前は、この異様な光景に眉を顰めた。

「一体どうゆう事?」

「ん?何がだよ」

「このダンボールの山と仕分けって」

高々と積み上げられたダンボールを指差しながら言うと、さも当然の事だと言わんばかりの表情をした忍足が口を開いた。

「名前ちゃんはこれするん始めてやったか?」

「え?」

「今日は跡部の誕生日やろ?せやから、跡部のもらったプレゼントに危険物がないか調べるんやで」

毎年やっとるけど、ちゃんと給料も発生するんやと忍足は少しだけ声を弾ませた。余りにも色々と突っ込むべき内容だった為、何も言えずにただ立ち尽くしていると、名前が背にしていた部室のドアが勢い良く開いた。

「おら、追加のダンボール持って来たぜ!」

「今年は去年の二倍くらいありますね!」

「今年も跡部の人気マジマジすっげーC!」

前が見えなくなる程に大きなダンボールを抱えて入って来たのは、宍戸と鳳と慈郎だった。向日と忍足の横にドカリとダンボールを置くと、宍戸はコキコキと首を鳴らした後に口を半開きにして固まる名前へ視線を送る。

「何突っ立ってんだよ。お前も今から俺らと一緒に作業すんだぜ」

「…………え」



毎年跡部の誕生日には、氷帝テニス部の部室は沢山のプレゼントで埋め尽くされる。
勿論氷帝学園の生徒からのものもあるが、他校の生徒からのものも多く、それらの殆どが跡部の家へ直接送られずに氷帝学園の住所で届くので、こうして何時の間にか跡部の誕生日には部員達が仕分け作業をする事が恒例行事のようになってしまっていた。
誕生日プレゼントの仕分けだなんて変な話だが、跡部ほどの有名人にもなると良からぬ事を考える奴もいるらしく、こうやって沢山のプレゼントに紛れ込ませて危険物を送ってきたりされる事もあるらしい。
流石に爆弾なんて物騒なものはないが、それでもせっかくの誕生日に相応しくないものが送られてきた事は過去に数回あったようだ。
氷帝テニス部員もそれを知っている為、「跡部も誕生日に貰ったものをこんな風に疑ったりしたくないだろう。人気過ぎたり有名過ぎる奴も大変だ」と、この作業に関しては跡部に少し同情しながらやっているようだった。
名前も宍戸達にならって床に座りダンボールを開ける。中には可愛い包装紙に包まれたプレゼントが溢れんばかりに詰め込まれていた。
それの一つを手に取ったところで、再び背後でドアの開く音がした。

「あ、跡部!」

「さっき廊下で後輩に捕まっているのを見ましたが、無事だったんですね」

「今日は来ないかと思ったぜ」

樺地と共に中へ入って来たのは、今日の主役の跡部だった。

「此処へ来るまでに7回引き止められたがな。お前らも仕分けご苦労。…樺地」

「ウス」

パチンと指を鳴らした跡部に応えた樺地は、一度部室の外へ出るとガラガラと台車を押しながら再び入って来た。

「また増えたな」

「これ絶対今日中に終わらんやろ」

「すご………」

次々と運ばれてくるプレゼントの数々に、流石の部員達も額に汗を浮かべていると、樺地に続いてサラサラの髪を揺らしながら日吉も部室へと入って来た。

「あ!日吉だー!!おせーよー!」

「日吉、遅かったな」

「どないしたん?」

「ちょっと来る途中に同じクラスの女子と先生に捕まっていました。これを跡部さんに渡して欲しいと」

日吉の手には、可愛らしい柄の紙袋と宅配便で届いたらしい箱。
紙袋の方は女子生徒からのものであると直ぐに分かったのだが、もう一方の箱に関しては、何やら不思議な柄に包まれていて怪しさ満点だ。

「ねえ、その箱は何かな?」

名前が恐る恐る尋ねると、日吉も首を傾げた。

「さぁ…俺にも分かりません。此処へ来る途中に学校に届いたと先生から渡されたものなので」

「じゃあさ、何があるか分からねえし取りあえず開けてみようぜ?」

「そうだな。ちょっと怪しい包装だしよ。なぁ跡部、コイツ開けてもいいか?」

「ああ、構わねえ」

その場にいた全員が日吉の周りに集まり、プレゼントと思わしき箱を開けるのをじっと見守る。
日吉がゆっくりと蓋を開けるのを、見ながら名前はやたら心臓が高鳴っていた。

が、


「「「え…………」」」


箱の中を見て、跡部以外の全員が固まった。

「………これって……正露丸……?」

ラッパのマークが付いたそれは、箱の中に綺麗に収まっていた。
暫く沈黙が続いていたが、名前の発した一言で金縛りが解けたかのように他の者も話し出した。

「何で正露丸なんだ?」

「てか、そもそもこれってプレゼントなのか?」

「宛先には間違いなく跡部さんの名前が書かれていますね」

「ん?何やコレ」

忍足が手に取ったのは、箱の蓋の裏にテープで貼り付けられていた白い封筒。
開いて見ると、中には筆ペンか何かで書いたらしい雑な字で、デカデカと文字が綴られていた。

「【跡部くん八ッPーPーバースデーーーー!!お腹がPーPーになったら、これを飲んで元気になろう!!これさえあれば試合中に腹痛起こしたって大丈夫だぜ!!】やと。差出人は……福士ミチルやて」

「誰だよそいつ」

「あーん?ミチルかよ」

「何だ、跡部知ってんのか?」

「俺様の誕生日にプレゼント送って来るんだ。知り合いに決まってんだろうが」

「何かどこかで聞いたような……」

「銀華中の奴だ」

跡部は日吉の手から箱を受け取ると、何やら機嫌良さげに正露丸を自らの鞄へと入れだした。

「何で誕生日に正露丸……」

「スッゴく気になります」

「うん」

「ちょお誰かこの件に関してもうちょい跡部に掘り下げた質問したってや」

「出来ねーよ!知らなくて良い事まで知っちまいそうじゃねえか」

微妙な表情で顔を見合わせたレギュラーは、取りあえず仕分け作業に戻ろうという結論になった。その間も跡部は嬉しそうな表情でどこかへ電話をかけていたのだが、その場にいた者にはその相手が誰なのか直ぐに予想がついた。

「おい、俺だ。お前またアレ送ってきやがって、この間まだあるって言ったじゃねーか!あん?幾つあっても?フン…しょうがねえ、これも有り難く貰っといてやるよ。ああ、そうだこの間話していた試合の件はどうだ?あ?テメェ…俺様は忘れてねえぞ!あのコートにボールぶちまける技!絶対に克服してやるからな!……何?腹が痛い?おい、大丈夫か!待て!今すぐ医者を呼んでやる。今どこに…………」



(((仲良いんだ…)))



あの何様俺様跡部様にも他校に友人はいるようで、色々と疑問や不安はあるものの、一同は暖かい目で見守る事に決めたのだった。