「へぇー、そんなに最低なんだ氷帝の跡部って」
そんな言葉と共に、俺様の視界に入った女に俺は一目惚れをした…………―――
「…………」
「…………や、景ちゃんそれめっちゃ望み薄「そんなことはわかってる、おい、ラブロマ脳を生かしてなんかしら考えられねぇのか」―――そんなこと言われてもなぁ……」
目の前の忍足は困ったように笑った。俺様だって困ってる。自分のやってきたことを後悔なんてしたことねえ、が不動峰の杏とかいう女と神尾に言った言葉についてちょっと後悔しかけている。不動峰の女子テニス部の名字名前、それが俺が一目惚れした女なわけで……………
「……寝ても覚めても、名字名前の顔が忘れられねぇんだ……」
そう呟けば、忍足は「あかん、重症や」と呟いた。まったくだぜ……本当に重症だ。
「あ、せや……なら、こういうのはどうや?」
「――――何か方法があるのか」
「うまくいくかはわからんがな……あんなぁ……」
・樺地だと跡部とばれる心配があるから自分で動くように。
・不動峰で正体を隠して近寄ることから初めてみればいい。
そんな忍足のアドバイスをとりあえず実行してみた。不動峰の制服を着用してみる―――が、問題は顔だった。自慢じゃないが俺様は目立つ容姿をしている。顔は極上であるのは間違いないし、チャームポイントの泣き黒子は印象に残りやすいだろう、その上髪の色も一風変わっているだ………どうすればいいんだ…………あと俺様の声も素晴らしいし………“跡部景吾”って特徴的過ぎるだろう。
「ちっ、どうすればいいんだ……!!」
そんなときだった――――パン屋の紙袋が目に入った。その時俺は何故か“コレだ…!”と思ったのだ。
―――後に気付くが、別に俺様にいるのは樺地だけじゃねえし、そもそも俺が動くとかも結構な悪手であり、実は忍足もそうとう動揺していたという話である。
が、その時俺様はそんなことに気付かず彼女を知りたい一心で紙袋を被り不動峰に潜入するのであった。
不動峰は俺様の知る中学校とは雲泥の差だった。汚い。なんで校舎裏で座ってる奴とかいるんだ?わけがわからねえ………制服汚れるだろう………よく考えたら紙袋をかぶってるのも可笑しいから俺様はこそこそと人目に付きにくく行動していた。ち、どうすればいいんだ。
「ちょ、やめてよ…!」
「お前、橘と仲がいいんだってな!」
「―――従姉妹だって知ってるんでしょ?!」
「あぁ、知ってる……だから、お前をだしに使わせてもらうぜ!」
聞き覚えのある忘れられない声と聞きたくも無い品の無い声が聞こえた。
見てみれば、彼女が――――品の欠片も無さそうな男共に襲われそうになってるところで――――俺様は迷わず長い足でそいつらを蹴り飛ばした。
「え、あ、ありがとう」
………困惑した顔も可愛いとかなんて女だ!流石俺様が惚れた女――――しかし、橘の従姉妹だと?こ、これはもう嫌われるフラグが立ってるのか?!
「……あの、貴方、なんで紙袋?」
………………………………………どう言えばいい?
「あ、ごめん―――言えない理由もあるよね……あぁいう人たちから私を守るのにも目を付けられちゃ困るだろうし……あ、お昼食べた?」
首を横に振れば、名字は頬笑んだ。
「じゃあ、待ってて!今、お昼持ってきて貰うから桔平に」
呼び捨てかよ!とか思いつつ、彼女とお昼を食べられるのが嬉しくて俺は待っていた――――本当に橘来たし……
「まったく、この学校で俺を使うのはお前くらいだよ」
「いいでしょ?二人前ありがとう」
「クラスに休みが居たからできたがそいつどこのクラスなんだ?」
ギクリとする、俺様はそもそもこの学校の生徒じゃねえ!
「まーまー、桔平……恩人を詮索するのは失礼だから……もう行っていいよ」
「ったく、いつもお前はマイペースだな……しょうがない―――俺は行くぞ」
「ありがとう、桔平」
………………………………よ、良かった。何を言われるかわからないからな。しかし、初めて見る―――これが給食か…………
「えっと、食べよう?紙袋さん」
…………なんだそれ、俺はっこのままでいいのか?紙袋のままでいいのか?違う違うだろっ!
紙袋を脱ぎ捨てる。名字は目を見開いた。
「―――景吾、だ」
「け、景吾君ね……わかった」
……………………………し、しまった。跡部景吾ってバレちまう!と思ったがそんなことはなかった。
ん?
「今日は秋刀魚の蒲焼きか……ね、食べよう」
「…………お、おう」
どうやら俺様を知らないらしい―――なんだあの心配は杞憂だったのか?しかし、なんだこれ……蓋を開ければ―――ご飯があったり、牛乳があったり、いや米に牛乳ってあんまり相性良く無い気がするが……となりを見れば名字が美味しそうに食べていて……俺様もおそるおそる口に運ぶ。
………………………食えなくは無い。料理のバランスもいいし―――ワカメスープだけはなんか立海を思い出すが………まぁ、どうでも良い。
「―――景吾君、さっきはありがとうね」
「ん?あぁ……」
なんだか悲しそうに笑う名字に俺様の心臓が軋んだ。痛い、なんだこれは………
「まったく、なんでこんな世の中なのかな……桔平にしても私もテニス頑張ってるだけなのに……最初から諦めてる彼らにどうして足をひっぱられるんだろう……」
―――く、だったら………
「俺様がどうにかしてやる……!」
“俺様?”とクエスチョンを浮かべる名字すら可愛い!!なんだ、なんなんだこの女………!止まらなかった。
「―――氷帝学園三年、跡部景吾」
「へ?え?」
彼女と居れば……俺は変わる、そう思えた。
「名字名前…さん、お前に一目惚れした――――だから頼む、俺のことを知ってくれないか?」
「あ、え?えええええええええええ?!」
パクパクと口を何度も開ける名字が可愛かった。
「――――お前が好きなんだ……好きで好きでたまらねぇんだ…!だから、俺様を見ろ」
―――悪手に悪手を重ねたがなんとか俺様はこの恋を生かせることができたことを報告して置こう。
ただ、神尾とかいう奴は許す気はねぇ……!
そして、俺が名前だけのヒーローになるのは給食を食べ終わった後すぐの話だったりする。