NO.6 | ナノ


▼ きみが壊した涙腺

 
※紫苑が強姦されます。
※最後までされます。
※痛いです。
※ネズミが若干酷いです。





西ブロックの市場を歩く。
道端で酔いつぶれ寝てる男を飛び越え、今日の晩飯を買う。
パン屋に寄ると、パン屋の女将が不思議そうな顔をした。

「おや、あの子の連れの……今日はあの子いないのかい」
「今日は仕事で、代わりにおれが」
「そうなのかい、なら、おまけしておくからしっかりあの子に食わしてやりな」

ここでは主食の当たり前の固いパンと、小さなチーズを、おれに渡した。
あの子…紫苑だ。
紫苑、また紫苑。
あいつは何も知らないくせに、誰しもを惹きつける。
さっきの女将も、イヌカシも、力河のおっさんも、片付け屋の奴らも、イヌカシの犬も。
おれの小ネズミたちもだ。

「なんなんだ、一体」

呟いても、答えは出ないのに。



「わうっ」

イヌカシの犬がおれのズボンの裾を引っ張った。
こいつは、紫苑につけてた犬だ。
眉間にしわが寄る。
引っ張られ、連れて行かれた路地裏で声がした。

「やめ……はな、せぇっ!」

白が、茶色の地面に押し当てられている。
その白にのし掛かる、全身褐色の男。
紫苑と、片付け屋だ。
紫苑のはだけた服と、のし掛かる男。
何をされているのか、考えずとも分かる。

「いやだ、はなせ、やめっ…ひぃっ!」

首を舐められた紫苑が悲鳴を上げる。
男の肩を押して離れようとしているようだが、紫苑の力程度ではどうにもならない。

「ばうばうっ!」

傍らにいた犬が、紫苑たちの所へ走っていった。
片付け屋の男が舌打ちする。
懐に手を突っ込むと、銃を取り出した。
照準が犬に向けられる。

「やめろっ、撃つな!」
「うるせえ!」

男の手を掴んで止めようとした紫苑を殴りつけた男は、飛びかかった犬に引き金を引いた。

「ああっ」

紫苑の悲鳴が聞こえた。
脳天をぶち抜かれて、犬は一瞬で絶命した。
紫苑が絶望の表情を浮かべる。
片付け屋はにやりと下卑た笑みで笑うと、再び紫苑との行為に集中する。
わめき暴れる紫苑を、陰から見る。

「一回、味わえばいい」

知らない男に体を舐め回される感覚を。
抵抗しても抵抗が意味をなされない恐怖を。
自分の知らない奥の奥を暴かれる感覚を。

「ひぐっ、あっ、ぁ゛ぁ゛ああぁぁぁっ!」

紫苑の絶叫が響き渡った。
慣らしもせずに、突っ込まれたんだろう。
まだ処女だったのにな。
童貞より先に処女を無くすってのも、なかなか悲劇で傑作だ。

「あ゛っ、あ゛ぁっ、痛、いた、ぁぐ、ああああ!」

紫苑の手が地面をガリガリ引っ掻く。
荒い息といやらしい顔で抽挿を繰り返す男が紫苑の胸やら首やらを舐め回すが、それにも気付いていない。

「あぐっ、痛い痛、い゛っ、ぁあああっ、ひぃっ、や、だっ、いぁぁああっ!」

紫苑のそれは、ただの叫び声だ。
快楽なんて入っちゃいない。
痛みと恐怖と絶望だけの、声だ。

何故か、耳を塞ぎたくなる。
強姦される声なんざ、日常茶飯事なのに。
紫苑の声は、聞きたく、ない。

「いや…いやだ…」

抽挿を繰り返されながら、ボロリ、紫苑の紫紺色の目から涙が零れた。

「助けて…ネズミ」

曇った紫紺色。
紫苑が、うつろな目で譫言のようにおれの名前を呼んだ。






ブチン






目の奥で何かが切れた音がして、真っ暗になった。



気付けば、腕の中に紫苑がいて、辺りには血だまりと、死体。
右手にはナイフ。
脂でギトギトになっている。
急いで洗わないと、使い物にならなくなる。
ぼんやりそれを見ていたら、紫苑が身じろぎした。
「……ネズミ」

掠れた声。
紫紺色の目がおれを見上げる。
殴られて腫れた頬には、涙の筋が幾つも出来ていた。

「ネズミ、泣いているのか」

泣いている、おれが?
頬に触れたら、水が指を濡らした。
舐めれば、塩辛い。
それと同時に、鉄の味がした。

「どうして、きみが泣くんだ」

さあな。
おれにも分からないんだ。

「泣かないで、ネズミ」

紫苑の手がおれの頬を撫でる。
紫苑の頬におれも触れれば、血が紫苑の白い頬に付いた。

「ありがとう」
「紫苑」
「きみは、ぼくを助けてくれたんだろう」

違う、紫苑。
おれはあんたが強姦される様をただ見ていただけだ。
一度は強姦されるあの恐怖を味わえばいいと、思ったんだ。

「ありがとう、ネズミ」

ふわり、微笑んだ紫苑。違う、違うんだ。
おれは、あんたがこの西ブロックを舐めていたから、思い知らせてやろうと思った。
だから、陰から見ていた。
あんたが犯されていく様を、ただ見ていた。
これであんたも、少しは警戒心を持つだろうと、思って。
なのに、あんたが泣いて、おれの名前を呼んだ瞬間、おれはあんたを助けていた。

「紫苑」
「なに、ネズミ」
「紫苑、紫苑」
「少し眠らせてくれないか、疲れた」

口が、喉が震えて、しゃくりあげるせいで言葉が紡げない。
ボタボタと紫苑の頬に落ちていく涙を、ただ数えた。
紫苑はおれの首に手を回して、おれの頬にキスをして、目を瞑った。
寝息が聞こえてくる。

「…ごめん」

紫苑。
ごめん。
脱力した紫苑の体を描き抱いて、そのあまりの細さに、おれは泣いた。

2011/10/26


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