NO.6 | ナノ


▼ 首筋の熱

※裏ではない
※でも危ない
※紫苑様降臨
※流血表現有





ネズミがナイフの切っ先を紫苑の首に当てる。
紫苑はそれに怖じることなく、ただ目の前に立つネズミを見つめた。

「死にたいのか」

鋭いナイフを細い首に押し当てているのだ。
これ以上力を込めれば、ナイフは紫苑の細い首へ埋まり、鋭い痛みと共に血潮を溢れさせるだろう。
命を簡単に奪うことの可能な刃物を首に押し当てられ、死の恐怖を感じるはずだ。
だが、恐怖にも怯えにも揺らがない紫苑の瞳、ネズミは柳眉を顰め死にたいのかと問う。


「きみはぼくを殺さない」


紫苑の返答に、眉間に皺を寄せる。
すうと息を吸い吐かれた言葉は、理解不能なものだった。
ネズミはいつでも紫苑を殺すことが出来る。
その柔肌に刃を突き立てるもよし、ナイフを使わず体術で殺すもよし、ナイフを投げ捨て細い首に手を回し締め上げるもよし。
なんとでも、簡単に出来るというのに。
紫苑が何を言いたいのか、理解が出来なかった。

ネズミの訝しげな視線に紫苑はゆるりと口の端を上げると、足を一歩前に踏み出した。
ゆっくり前足に体重を乗せていくと、ナイフの切っ先が紫苑の喉に食い込み、ぷつりと皮膚を絶つ。

血が、ナイフが食い込んだ先から玉を作り溢れ、零れ落ちた。
ネズミの目が見開かれていく。
それを見て目を細め、更に足に体重をかけナイフを埋め込んでいくと、ネズミはナイフを紫苑の喉から素早く引き抜いた。


「あんた…なに、して…」


上擦り震えるネズミの声が、紫苑に困惑を浴びせかける。
紫苑の喉に数ミリほど埋まったナイフを持つネズミの手が震えているのを、紫苑の紫は写した。
拭われることもせず、傷口から流れ落ちる血は紫苑のシャツを赤く濡らしていく。
ゆる、紫苑は笑うと、怯えを含んだネズミの灰色に気づいてさらに笑む。


「ほら、きみはぼくを殺さない」


紫苑の唇がやけに艶めかしくゆっくりと、そう動くのをネズミは見た。
その声も、どこか遠い所で聞いていた。
紫苑の首の傷から流れ続ける血を止めなければと思うのに、身体が動かない。
流れ落ちる血を、紫苑はまるで汗でも拭うかのようにうざったそうに手で拭う。
ざっと紫苑の首に、帯状痕だけでない赤が伸びる。


「し、おん」


蒼白になったネズミの灰色の瞳は、ゆるりと微笑む紫苑の紫を見つめたまま、外せない。
自身の血に濡れた紫苑の手がネズミの頬を愛おしげに撫で、白磁の肌に朱を入れる。
ネズミの冷たくなった頬に触れた手を、首までするりと滑らすと紫苑は口を開く。


「きみはぼくを殺さないんじゃない。きみは、ぼくを、殺せない」
「しお…」


首に手を回し、ネズミの色のなくなった震える唇に己の唇を押し当てる。
紫苑の体温が、血の気を失った今の己には、やけに熱く感じた。
まるで熱に食われるかのように。
考えることも放棄した。
冷たい唇を暖めるかのように、唇を啄み角度を変えて何度も口づけていく。
ネズミの手が紫苑の腰を抱き、口づけは深く深くなる。
喉の傷口から流れ出る紫苑だったものをネズミの手が拭い、傷口に触れ、指を食い込ませる。
傷にネズミの指が食い込むたびに走る痛みと、深いキスによる快感、ネズミはぼくを殺せないという事実に、紫苑は体を歓喜に震わせ、ただくぐもった嬌声を漏らした。



つまりきみは、ぼくをうしなうのが、怖いんだ。

2013/01/16


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