NO.6 | ナノ


▼ それは君の全てに似ている


紫苑は葡萄に似ていると思う。
それは目の色であり、葡萄の果実そのものでもある。
お堅く触れるのを躊躇わせるような濃い紫の皮を剥いた中の果実は酷く柔く、甘く優しいのに、更にその中には隠れるように固く苦く、だけど生命力を詰め込んだ種がある。
それは紫苑の全てに似ている。

むしろ紫苑は葡萄の化身ではないか。
そう思い至って、すぐにいや、と首を振る。
あの真っ白で透明な髪や、体に這う赤の蛇は葡萄とは似ても似つかない。
だが、あの髪と蛇を例えて言うならば、そう、濃い紫に熟れた葡萄に付いた白い霜と、その葡萄を狙う赤蛇か。
どうしても紫苑と葡萄を結びつけたいのかと、顎を引いてくつりと小さく笑う。
それもこれも、よく熟れた葡萄が目の前にあるのがいけない。

この葡萄も、紫苑が持ってきた。
NO.6の技術で遺伝子レベルから作られた、粒の形も大きさも均一に揃い味も濃厚で甘く高級なそれは、力河が手に入れたという。
そんな高級な物を紫苑に寄越すとは、どれだけ力河は紫苑を可愛がっているのだろう。
考えずとも、この葡萄だけではない数々のプレゼントや、紫苑とその他との対応を見るだけでその溺愛具合は窺えるが。あのアル中で業突張りなおっさんがなあ。
紫苑は動物に好かれるからな、あのタヌキのおっさんはまんまとその無自覚の毒牙に引っかかったわけだ。
紫苑が少しでもおねだりしたら何でも買ってやりそうだ。
可笑しくなってくっくっと喉で笑う。

ランプの光を受けてオレンジ掛かった葡萄。
なんだか葡萄が可愛く思えてきた。
そんな馬鹿な考えを嘲笑し、葡萄を皮ごと一粒口に入れ噛みしめる。
奇麗に揃った歯が紫の皮を破り、中から甘い果汁が滲み出た。

ああ、甘い。
甘ったるい。
本当に紫苑そのもののようだ。
舌に纏わりつく甘さに、顔を少ししかめた。
少しの苛立ちを隠すようにもう一度中の果実を噛む。

ガリッ

嫌な衝撃。
今度こそ、隠すことなく嫌そうに顔をくしゃっとしかめた。
NO.6で作られた物だから、種なしの甘いだけの葡萄かと思っていたのに。
中を割り開くと、果実とはまるで正反対の苦みを持つ種があった。

ああ、これも紫苑にそっくりだ。
苛立ち。
紫苑は読み取れない。
このおれが、掴めない。
葡萄の房から一粒またもぎ取り、手の中で転がす。
ランプの光を反射する濃紫を見つめ、口に入れる直前で、葡萄を握り潰した。
圧力に負けた果実が濃紫の皮を破り、果汁が泡立った音を立てる。
果実の繊維が手の中で裂ける感覚、果汁がネズミの細い手首を伝い肘まで滴った。
指の間から種がにゅるりとはみ出し、床に落ちた。

床に落ちた種が小さな音を立てる。
その音が誰も居ない地下室に独り居るネズミには、とても大きく聞こえた。
鼓膜にいつまでも残る音。
腕を滴った果汁を舐めとる。
ああ、甘ったるい。
眉を寄せる。

口の中に残ったままだった噛み砕いた苦い種は、吐き捨てることが出来なくて。
舌にいつまでも残る果汁の甘さと共に。

ごくり、嚥下した。




2012/07/17



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