short | ナノ





・短い

市丸、と声を掛けたら、やや間を置いて彼が振り返る。虚夜宮の壁は真っ白で、白い衣装の市丸は背景に溶け込むカメレオンのようだった。カメレオンというよりは蛇なんだろうけど。

「どないしはったん、なまえサン」
「いや、見かけたから声掛けただけ」
「なんやのそれ」

尸魂界にいた頃、鬼道衆だった私は藍染隊長を通してしか彼と関わることは無かったけど、服装は変われど吊り上がった口角と糸のような目に変化は無くて、縁日で売っていた狐の面を思い出す。蛇なのか狐なのか、人を喰ったようなやつという意味では大体同じなのかもしれない。そういえば前にグリムジョーから、市丸が狐ならお前は狸だなんて言われたけど、アレどういう意味なんだろうか。悪い意味なら彼奴いつか泣かしてやる。

「なまえサン、いっつもどこいってるん?探しても見つからんって東仙サンがよお角生やして怒ってるわ」
「散歩だよ、散歩。市丸もよくどっか行ってるし、お互い様でしょ」
「....それもそうやね。散歩なら仕方ないなあ」

そう、お互い様だ。私も市丸も、ただ黙って藍染の傍にいる訳では無いのだ。彼には彼の、私には私の考えがある。他人に触れられたくない不可侵の領域がある。百年以上前から、いつか来る日の為にと腹に秘めた毒がある。私達はお互いそれに気付いているけれど、手を取り合う日なんて絶対にこないのも知っている。敵でも味方でも無く、いや見て見ぬ振りをしている辺り、言うなれば同輩か、共犯者か。

そうそう、仕方ない、仕方ない。真似するように、にーっと笑みを作ってやると、似合ってへんよ、と小馬鹿にしたように言われた。お前もいつか泣かしてやるからな。

・続くかもしれない

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