short | ナノ





がしゅ、と指を削るような音を立て火が立つ。咥えた白い筒の先端を焙り焦がして、息を吸う。口内に広がる苦味に眉間に思わずしわを寄せると、それを眺めていたキャスターに、やっぱりガキには早ェなと言って口から掠め取られてしまった。

「しかしマスター、そんな上等なモンどこで手に入れた。お前のモンじゃあねェだろう」
「いや、これ預かり物だからさ」

かしゃん、かしゃん。煙草を取り上げられてしまって手持ち無沙汰になったものだから、ライターの蓋を開け閉めして遊んでみる。使い古され細かい傷の沢山入ったライターは私のものでは無いけれど、そのくせ手のひらによく馴染んだ。繊細に彫刻された上品なトライバル模様だけで物の価値に明るくない私でも、高価なものだとよくわかる。煙草の煙をふかふかさせながら預かり物ねえ、とごちるキャスターの声はなんとなく揶揄しているようにも聞こえた。

「いつ返すつもりだ」
「....持ち主に会えたら」

かしゃん。会えるかはわからないけれど。キャスターが喉を鳴らして笑う。口の中に残った苦味を噛み締めた。彼はきっと、まだ塔の中にいるんだろう。あんな場所、ライターの明かりでもなければ真っ暗なんだから、早く返してあげなければ。高らかに不遜な笑い声も、待て、然してなんて声も聞こえてこない。そうだな、次は私から会いに行かないと。

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