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NRCで古代呪文学を教えてる非常勤の魔法士
古代文学の蒐集が趣味

遊園地イベ若干ネタバレ有

▽▲▽

「...遊園地?また妙なビジネスに手を出してるね」
「そう、ビジネス!それもまた随分と愉快で痛快なビジネスさ!愉快なんて聞いたら、君も一枚噛みたくなるってもんだろう?」

くるくると手遊びして回したステッキを、カンッ、と硬い音を立てて冷たい床を突く。
びょんっ、と釣られてわざとらしく無口な少年が飛び上がって見せるが、みょうじはそんな彼の仕草を可愛いだなんて評してやるほど楽観的では無く、このふたりの日頃の行いを重々知っている身としては、今すぐ然るべきところに通報してしょっぴいてもらった方が良いんじゃないかとすら考えている。

「おっとみょうじ?君は今少しだけ怖いことを考えていたりやしないか?この俺の尻尾がゆらゆらっと感じ取ったぜ、お前の怪しくてズルい考えをな」

ツン、とフェローの細く筋張った指が手袋越しにみょうじの鼻先に触れる。口調とは裏腹に柔らかく、綿毛にでも触れるような手付きでフェローはみょうじの頬を撫でた。

「悲しいなぁ?俺はこんなに楽しいエンターテインメントを君と一緒に楽しみたいってだけで、深ぁい意味なんて何もありやしないのさ。どうぞ、君の二枚貝のごとく固く閉じた心を開いて、この正直者のジョンを信じておくれやしないかい?」
「やだよ、君、生牡蠣とか好きじゃん。開けたら最後、頭から丸呑みは勘弁だぜ」図々しく頬に添えられた手を、みょうじは馬鹿馬鹿しいとばかりに軽く払い除けた。「あぁ、それは残念」引き攣った笑い声を口端からこぼれ落とるフェローは、払い除けられた手を大袈裟にさすって、また薄っぺらくて安っぽい笑みを貼り付ける。

「熱砂の国一の賢人みょうじ先生が監修なんて、そりゃあもうたまらないほど箔が付く。君は君で誰も知らない新しい物語が読めるんだ。君と俺が手を組めばそんな舞台なんて簡単に出来上がる。損させる気はないぜ、本当だ」だって俺は正直者のジョンだからな、そうバチンと鳴りそうなほどデカいウィンクをして、また、ご自慢のステッキを振り回す。

「お前は俺を信じてさえいれば、お前が俺を信じてくれるなら、怖いもんなんかありゃあしないのさ」
「うーわ、やめなさいよ。呼び名の多いヤツは簡単に信じちゃダメなんだよ。御伽噺でも定石だろ」

この狐男、ウィンクの下の瞳が、あんまりにもギラギラしが情炎に燃えていて、コソコソいたたまれないように頭を抑えて耳を覆うギデルがわざとらしくて、少しだけ滑稽に見えたものだから思わず笑ってしまった。──過去数度こいつの詐欺騒ぎの後始末の奔走させられた記憶なんて、今更どうでも良いかとすら思えてしまう。

「手始めにオイスターの美味い店を予約しますよ。店選びは当然俺にお任せ下さいね」
「...期待しないでお待ちしておきます」
「聞いたかギデル!了承を得た!デートだ!こうしちゃあいられない、俺たちは急いでやることがある!あばよみょうじ!」

わざとらしく慌ただしい仕草をして、帽子を引っ掛け、ステッキを手に相棒を引き摺って部屋を飛び出そうとしたかと思えば、フェローは上物のコートの裾をくるりと翻した。
完全に見送る体制でいたみょうじは一瞬何事かと目を瞬かせたが、ツカツカと迷いなく歩み寄るフェローは、芝居がかった仕草で恭しく傅くと、みょうじのつま先に口付けを落とす。

「失礼、麗しの俺のレディ。このフェロー・オネストとしたことが忘れ物をしちまうところだった」そう言っておおよそ紳士のそれとは思えない、鋭い犬歯の覗くギラついた笑みで笑って見せた。

この狐男、ただの胡散臭い優男でも、チンケな詐欺師でも、根っからの小悪党でも、どれを指すにも適切な表現が無い。いつの時代も名前の多いヤツというのは大体英雄か悪魔のどちらかで、どちらにしても到底信用してはならない存在なのだ。

「早く帰ってくれないかな」
「せっかちなレディだな!ギデル、お暇するぞ!俺は今から国中の海鮮レストランを巡って最高の店を探さなけりゃいけない!」