赤也が一人の男が連れて来た。

それを幸村と二人で迎える。

「真面目だけが取り柄そうで、逆にいいんじゃない?」

と幸村は何時もの穏やかな笑顔で赤也の隣に立つ背の高い眼鏡の男を評した。

「お初に御目に掛かります。私は柳生比呂士と言います。切原君とは良いお付き合いをさせていただいております。」

90度に頭を下げる辺りが赤也と正反対の堅実さが好感が持てる、赤也にはこれくらいの男が丁度良いのかも知れない。

浮わついた赤也にして柳生の隣で大人しくしている。

「柳生せんぱいってば、良い付き合いとか。俺ら深い仲じゃないッスかぁ〜?」

何だとっ?!

挨拶に来る前からそんな…、何とけしからん!!

少しでも思い直した俺がたわけだった。

「切原君、お二人の前ではしたないですよ。」

「実は赤也がだな…。」

「赤也か?どうかしたのか?」

幸村と俺以上に赤也に目を掛けている蓮二が眉を寄せた。

「うむ…、柳生にしたらしい。」

本人達が態々俺達の前で宣言したのだ、間違い無いだろう。

赤也が選んだ男だ、誰だろうが何も言わずに笑顔で認めようと幸村と話していたのだ。

腑に落ちないのは、その相手が俺が思ったより早かったと言うだけだと言い聞かせているのは何故だろうか?

「相手は誰だ?」

蓮二に問われるままに口を開く。

「…柳生だ。」

「柳生?…ほおう、それはまた、意外な相手を選んだ物だな。」

参謀ですら予想にしなかった男なのか、蓮二は目を開いて腕を組み、右手を顎に添えた。

「悪い奴では無い…、寧ろ赤也には過ぎた相手だとすら思うのだが…。」

「それが親心と言う物だ。」

そう俺の肩を叩く蓮二は菩薩の様な笑みを残して別なコートに向かった。

残されたのは笑みだけでは無く、それこそ「親」としての責任だろう。

ここに来て頭痛の種が絶えないと短い溜め息が溢れた時、ジャッカルが駆け寄って来た。

「真田、ブン太見なかったか?」

「…いや。またサボっているのか。」

赤也の事に気を取られていたが、テニス部で目立つ頭がコートで見当たらない、二つも。

「仁王共々灸を据えてやる。」

「これからダブルスの練習があるから手加減してくれよな…。」

機嫌直すのが大変なんだよとぼやくジャッカルは丸井に甘過ぎる、少しはパートナーとして厳しく言ってやっても良いくらいだ。

「お、ブン太…、」

先にジャッカルが気付いた。

「と、柳生か?」

「だなぁ…、意外。」

自由奔放の丸井と模範生の柳生とでは反りが合わない、普段も挨拶程度しか交わさない二人が何故この様な校舎裏にいるのだ。

二人に近付くにつれ、会話が耳に入る。

「柳生で行って正解だっろぃ?」

「おぅ、ブンちゃんの言う通りナリ、一発OKよ。」

「真田はまだ仁王と柳生の区別つかないもんなぁ。」

「幸村は気付いとったけどな。レフティ対策の赤也とイリュージョンの俺、これで団体戦のダブルス枠は貰ったも同然じゃ。」

「つってもD2だからよぃ?」

……何と!!

あの柳生は仁王だったのかっ?!しかも赤也は団体戦出場の駒の為に使われたとは……、許せん!!

「仁王ぉぉぉっ!!貴様ぁ、勝負をせぬかぁ!!」

ジャッカルの制止も振り切り、俺は赤也の為だけを思って仁王に詰め寄った。

「おっとぉ?意外と早くバレてしもうたのう。」

「さっさとコートに入らんかぁー!!」

然程驚きもせずに丸井と肩を竦め合う仁王にラケットを突き付ければ、憎たらしくも何処より取り出した眼鏡とカツラを装着した仁王が言ってくれる。

「私の切原君への思いは本物ですよ。」

「フン。そんな紛い物、貴様諸共打ち砕いてやるわ。」

来年の王者立海を背負って行く赤也の純粋な感情を弄んだ仁王の咎は誰より重いとその身で知るが良い。

「そーは、いくかの?」

柳生の姿のまま不遜気に片頬を歪めた仁王がラケットを斬る。

「レーザービーム!!」

「動くこと雷霆の如し、加えて侵略すること火の如しぃぃぃ!!」

温いわ!!本家柳生のレーザービームも先日攻略したばかり、仁王の亜流等止まって見える…っ?!

「真田ふくぶちょー!!柳生せんぱいー!!俺のために争わないで下さい…っ!!」

突如豪速球が飛び交うネットの前に赤也が飛び込んできた。

「退け、赤也っ?!」

「チッ、バカがっ?!」

赤也出現に俺は軌道を変える事は出来たが、予想外の事に詐欺師も咄嗟の判断が出来ずに、あわや無防備な赤也にボールが直撃するのでは無いかと目を反らした。

が、しかし、何時まで経っても人体に当たる耳に付く嫌な打撃音は響かず、代わりに馴染んだインパクト音とコートをバウンドする音。

恐る恐る目を開くと、赤也を腕に抱いた柳生がコート中央に立っていた。

「これにて遊びは終わりです、アデュー。」

その芝居掛かった台詞が苦手だが、今程救われた事は無い。

「なんか、柳生が美味しいとこ持ってたね。じゃ、次は何にしようか?」

「…真面目に部活をしろ。」

嬉々として携帯のデータフォルダを見ている幸村にそれしか言えなかった。


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未散さまの書く真田がツボです。
ありがとうございました!
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