罰則日和

視界のほとんどが白飛びするような、強い日差しを避け、額に手をやる。あまりの眩しさに、目を開けるのも億劫だっだ。げんなりした気持ちで空を見上げようとしたところで、「ママは、いますぐ心を入れ替えろって言うんだ」と声がした。
彼女は、首を戻した。芝生に揃ってうずくまり、陰気な雰囲気を発するふたりを見やる。
赤い髪だけは光を反射して、ちかちかと輝いていた。

「それから、兄さんたちを見習いなさい、ってね。もう聞き飽きたよ」
「チャーリーもビルも自分の好きなことをしているのに、僕たちは認めてもらえないなんて」
「どう考えても不公平だ。自分たちの店を持てさえすれば、家族で一番の稼ぎ頭になってみせるのに」

フレッドとジョージは、最初からずっとこの調子だった。彼らを守るための籠が、本人たちからすれば、閉じ込められた檻にしか思えないのだろう。現状への鬱憤を晴らすべく、ほとんど自棄になって、雑草を引き抜いている。というより、根をほとんど残し、上辺だけを引きちぎっているので、余計に始末が悪い。

「僕たちには大きな可能性があるのに、なんで、こんなこと、しなくちゃいけないんだ」

フレッドか、あるいはジョージが、語気を強めて、雑草を鷲掴み、上に引っ張った。
彼女は反射的に顔をしかめた。マグル式の草むしりでは、引き抜き損ねたとき、思わぬ切り傷を負うことがあるのだ。
しかし彼らの、クィディッチの練習で豆が潰れて皮が厚くなった手のひらには、そんな心配、無用だったらしい。その代わり今度は、爪の間が土で汚れているのが気になり、とうとう、「軍手をしたら」と口を挟んだ。
フレッドとジョージが同時に振り返る。彼女が手に持つ、ふたりぶんの軍手を一瞥するなり、「いらないやい」と片方が不貞腐れ、「軍手はいいから、杖を使わせてくれよ」ともう片方が嘆願した。
「それじゃ、罰則にならない」と彼女は首を横に振った。

「罰則を受けるようなことをしているうちは、お母さんも認めてくれないと思うよ」
「僕たちは人を喜ばせたいだけさ」
「今回のサプライズも、きみは喜んでくれると思ったんだけど」
ふてぶてしい笑みを浮かべられると、悪戯するための建前にしか聞こえず、彼女は眩暈を覚える。「おかげで、後始末に半日かかったんだよ」とこめかみを指で押す。なんだか頭が痛い気がする。彼らは、同じ顔を見合わせると、にっ、と笑い合った。

「部屋の異変に気づいたときのきみは、すごかったなあ」
「さすがの僕たちも寿命が縮んだものなあ」

笑い事なのかと、怒る気にもなれなかった。
一日よく働き、疲れて帰った、自分の部屋の変わり果てた姿を思い出し、「あんな悪戯は、もう二度と許さないよ」と忠告する。
が、せっかく自ら監視役をしているのに、フレッドとジョージの口から出てくるのは反省の言葉ではなく、これ見よがしの不平不満ばかりである。

「あああ、クィディッチの練習があるのに」
「ウッドに殺されちまう」

彼女は息を吐いた。「もういいよ」と中庭の敷地を、指でくるりとなぞった。「本当は全部、やってもらう予定だったけれど、ここの半分でいいよ」
不本意ではあるが、自分の怒りはすでに彼らが愛するクィディッチをお預けにするほどではない。そう言えば喜ぶと思ったのに、しかしふたりは、疑り深い目でこちらを見上げていた。

「それで、僕たちが罰則をさぼったってマクゴナガルに報告するつもりでは」
「しないよ」
「なら、残りの半分は、どうするつもりだい」
「仕方がないから、私が」

右手に軍手をはめたところで、いや、私が残りの草むしりをするにしてもマグル式でする必要はない、と気づいたが、つぎの瞬間、視界がひっくり返っていた。フレッドとジョージが陸上選手よろしく、クラウチングスタートのような素晴らしい脚力を発揮し、突進の勢いのまま、飛びついてきたのだ。
小柄な彼女に、体格のよい青年をふたりも受け止めきれるはずもなく、三人は一緒になって、芝生の上に投げ出される。

否応無しに見上げることになった空は、ずっと頭上にあったにも関わらず、だれかが突然、覆いを取り去って目の前に現れたかのようだった。青空に身も心も圧縮されそうなのに、地球の包みこむような丸みを感じさせる。
いい天気だ、と声に出しそうだった。その空はでもすぐ、左右から視界に入り込んできた、瓜二つの顔に遮られた。真上から見下ろされている。

「きみはなんて情け深いのだろう」
「僕たちが間違っていた、のかもしれない」
「いや、でもあの部屋は地味すぎた」
「たしかに、疲れて帰ってきても気が滅入るだけだ」
「私の部屋のことは放っておいて」息がぴったりと合った応酬に、なんとか割り込むように声をあげた。
「僕たちがまたいつでも改装してあげるよ」
「今度は本気で。悪戯はもうなし」
「だから」そこで、同じ声が揃った。「草むしりはもういいから、クィディッチの練習に行っていい?」

自室を滅茶苦茶にされ、子どもたちは予測不可能だし、やらなくてもよい雑用をすることになったのに、空は相変わらず無関心で、青く透き渡っている。

「だからって、なに。もういいわけないし、半分はちゃんと草むしりして」

でも、悪くないかもしれない。こんな青空もあるんだな。
手に負えない状況に呆れながらも、彼女の心は少しだけ、地面から浮き上がるようだった。


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