愛の証明

ずっと自分は特別だと思っていた。ホグワーツに入学する前からどんな呪文も見聞きしただけで習得できたし、一度読んだ本の内容は、頭の中の引き出しに整理しておくだけで二度と忘れないでいられる。あらゆる呪文を覚え、知識が増えて、それでも、どうしてだろう。世界は退屈なままだった。
自由を実感できるのが唯一、箒に乗っているときだけだなんて、最高に悲劇ではないか。
元々、欲しいものは必ず手に入れないと気が済まない性分だ。僕は退屈な世界を変えようと思い、常識や規則に囚われず、この優秀な頭脳が思いつくことはすべて実行してきた。
ホグワーツの教師たちに何年も、「才能を無駄にするな」と説得されてきたが、僕は諦めなかった。

それが、いつの間にか変えられていたのは、僕のほうだったなんて。
こんなことになるなんて、予想外だ。

つまり、恋に落ちて僕はようやく、退屈じゃない日々を手に入れられたのだ。
もちろん、楽しいことばかりじゃない。まず、自分が特別なんかじゃないことに気づかざるを得なかった。その代わり、あの子にとって特別な存在になりたいと願った。そうなれさえすればいい、と。
そして、愛には犠牲が伴うことを、身をもって知った。

僕を一目見るなり彼女は、ぐっとなにかを堪えるように唇を噛み、それ以上、視界に入れたらまずい、と本能が判断したみたいに目を閉じた。は、と苦しそうに息を吐く。

「ねえってば」
「うん?」
「人と話をするときは、相手の目を見るって習ったろう?」

一瞬、間があったあと彼女は、ぱち、と目を開けた。すぐに、ふふ、と噴き出す。ぱち、ふふ、だ。ついにはぽろぽろと殻を破るみたいに、あはは、と声をあげた。
控えめに微笑むばかりを見慣れていたから、子どもみたいに笑われると、僕までついつられて噴き出しそうになる。いっそのこと、一緒に大笑いして、この愉快な時間を満喫したい、とも思う。
しかし、僕は真剣だ。笑ってもらうためじゃない。腹に力を入れて、しかめっ面を保った。

「はあ、は……それ、それは、え? どういうこと? ふふ」
「見てのとおりさ」
「あ、はは、は、くるし……」

自分の髪を掻き上げる。笑うなら笑うがいい。だれがなにを言おうと、僕は満足だ。
滑らかな指通り、素直な毛先、天使の輪が輝く、直毛の僕。
分かっている。だれだ、これは。直毛薬を使っただけなのに、鏡の中から僕が消えた。眼鏡は以前より似合っているような気がするが、いまの僕は景色に馴染みやすいというか、個性が完全に死んでいる。
いや、いいさ。この際、なんでもいいのだ。
同じさらさらの黒髪でも、どこか異国情緒を感じさせる彼女や、寝起きの状態だろうと腹が立つほど様になっているようなシリウスに、まあ彼もこの僕を見て床を叩いて笑っていたけれど、僕の気持ちがわかるはずない。
性格って髪質に出るのね、と言われたショックで、僕の心は未だに血を流しているのだ。

「だめ、もうだめ、可笑しすぎるよ……」
「さあ、リリーを出してもらおうか。きょうこそは“イエス”って言ってもらうんだから」
「ええっ、その頭で!?」


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