12 クリスマスの宴会

ハニーデュークスの店内は、ホグワーツの生徒でごった返しになっていた。おかげさまで商売繁盛といったところだ。壁際の天井まである棚には、カラフルなお菓子の詰まった大きな瓶が並べられ、カウンターの奥で、感じのいい老夫婦が、忙しそうにしている。自分たちが通っていたころから、彼らは老夫婦だったのに、と彼女は不思議に思った。時間の経つ早さは、人によって違うのかもしれない。

「手伝いって、これだったんだ」
「大人の男がひとりじゃあ、入りづらいだろう?」

彼女の隣に立ち、リーマスは懐かしそうに店内を眺めていた。
店に一歩、足を踏み入れただけで、お菓子に夢中になっている生徒たちの邪魔にならぬよう、ふたりは隅に立っていたが、大人の姿は自分たちだけなので、いずれにしろ目立っている気がする。ちらちらと生徒たちと目が合う。
「リーマス」彼女は降参したような声を出し、首に巻いていたマフラーを、鼻の上まで持ち上げた。顔の半分が隠れる。

「私、ちょっと気持ちが悪くなってきた」

独特の甘ったるい匂いにくわえて、この人混みだ。甘いものは嫌いではないが、さすがに胸焼けを起こしそうだった。
嗅覚を鈍く塞ぐような匂いに見失ってしまいそうな気がして、リーマスのマントを掴む。すると、すぐに彼女の手が温かいものに包まれた。大事そうに握り返してくれる。リーマスの手だ。

「きみは昔から、この店が苦手だったね。大丈夫かい?」

背中を丸めて、顔を覗き込んでくる。

「大丈夫だけど、早く用事を済まして、三本の箒に行こうよ」
「うん、そうしようか」

リーマスはずいぶんあっさりと了承し、出口のほうへ彼女を引っ張った。え、とその腕を引き留める。
「もう行くの? なにも買わないの?」
「うん。いいんだ」いつもの笑顔が向けられる。だが、優しげな表情が、彼女をよけいに不安にさせた。

「大丈夫? 気分でも悪い?」
「絶好調だよ。それより、バタービールを飲みながら、ホグズミードを見て回ろうよ」
「リーマス、本当に大丈夫?」

食い下がる彼女に、リーマスは苦笑を浮かべる。
リーマスが、ハニーデュークスに立ち寄って素通りするなんて、考えられなった。そのとき、彼女の脳裏に、脱狼薬がよぎった。薬の存在を知ってから自分なりに調べたので、あり得ないとは思うが、なんらかの副作用が影響しているのかもしれない。
考え込んでいる彼女をちらりと見、リーマスが困ったように笑っていることも知らずに、スネイプに相談しようかとまで考えはじめている。

「私は大丈夫だよ」

ハニーデュークスの扉を開けながら、仕方なくリーマスが言う。

「うん」

彼女は、その言葉を信じる。扉のすきまから、雪混じりの冷たい風が吹き込み、ぶつかってくる。
でも、その笑顔には注意しなくてはならないことを、彼女はちゃんと覚えている。彼がひとりで傷つかないように。泣いていないように。
ハニーデュークスを出る前に、彼女はリーマスの手を、しっかりと握り返す。
三本の箒に向かっている途中で、リーマスが訊ねた。

「きみは、今年のクリスマスもホグワーツに残るのかい?」
「うん」
「せっかくなら、宴会に参加してみたら?」
「うーん」彼女の表情が、あきらかに曇る。

「私は遠慮するよ」

リーマスは諦めたように笑った。「だと思った」

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