02 懐古と憂鬱

ダイアゴン横丁の賑やかな大通りを、まっすぐ進んだ突き当たり。ひときわ高くそびえる、真っ白な建物がグリンゴッツ銀行だった。
その地下、深く。
ハリーとトロッコに乗り込んだハグリッドが、胃から逆流してくる朝食のウインナーをそうはさせまいと必死に闘っているころ、彼女はホグワーツの校長室にいた。
窓から降り注ぐ陽の光を浴びて、白銀の豊かな髪と髭が後光のように輝くアルバス・ダンブルドア校長を前に、思わず目を細める。

「どうじゃった、ジェームズとリリーの子は」

ダンブルドアの碧い瞳がうれしそうに煌めく。机越しに立っている彼女を、見上げていた。
「えぇ」と、うなづき、正直に言う。
「ジェームズかと思いました」
「まるで双子のようじゃ」
「でも」首を曲げる。「彼より、ずっと素直そうな子ですね。ダンブルドアが仰ったとおり、魔法界にいたら、性格までジェームズに似ていたかもしれません」

ダンブルドアが少し困ったように微笑んでいた。彼はいつだって正しい判断をするのだ。彼女も応えるように笑いかけたが、うまくいかず、目を伏せた。
隠しきれない翳りが黒い瞳を濁らせる。なにもかも見透してしまいそうなダンブルドアは、そっと見ぬふりをした。
あれだけ似ていたら、戸惑うなというほうが無理なのだろう。とくにジェームズ・ポッターをよく知る者は、誰だって。
ダンブルドアは、「今日は」と努めて笑みを絶やさなかった。
「ハグリッドがハリーとの買い物を済ませ次第、“賢者の石”をここへ、ホグワーツへ持ち帰ってくる予定じゃ」
「それが一番だと思います」
「さよう。先生方にも協力を要請してある」

そこでじゃ、と長い人差し指が、高い鼻の横に立ち上がった。

「お主は行くところがなかろう? ここに残ったらどうじゃ」
彼女は、きょとん、という顔をしたが、すぐに眉を困らせた。「残るといっても、私は…」
かつての学舎は懐かしかった。だが、教師でも生徒でもない自分がここにいる価値は、ないようにもおもう。
「お主なら“闇の魔術に対する防衛術”の先生を任せられる」
「たしか、先にもう勤務してる先生が、いらっしゃいませんでしたか。クィレル先生、という名前でしたか」
「休暇から帰ってきて以来、人が変わってしもうたが、よい先生じゃ」
そう言うダンブルドアに、悪怯れた様子もない。
「では、職員は足りているようですね」と言いながら、彼女はますます困惑した。
「それに」身体の前で繋いでいた手が、ぴく、と強ばり、それを隠すように握り込む。
「私はもう、杖を握れません」
申し訳なさそうに言った。

「しかし、働かざる者、食うべからずと言うし」

ダンブルドアが頭を捻ったのは、ほんの数秒だ。二秒後にぱっと明るくなった顔は、悪戯を思いついた少年のそれとまったく同じで、耳にする前からいいアイディアと期待できない気がした。

それでも行くところがないのも、事実だった。むしろ、ダンブルドアのそばで、こんな自分でも彼の役に立てるのなら。
それは本望だ。

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