12 帰還

扉からコン、コン、という音が聞こえ、アーサー・ウィーズリーは子どもたちが帰ってきたのかと、椅子から尻が浮いた。腕のなかでうなだれていた妻のモリーが、夫の反応に遅れて気づき、顔をわずかにあげる。
部屋に入ってきたのは、しかし予感していただれでもなかった。
アーサーはあっと息をのんだ。
ダンブルドアがいる部屋の奥までまっすぐ進んでいく彼女は、昔と見た目が変わらないままである以上に、目元に荒んだような雰囲気を纏っていた。以前のように、見かけたからと気軽に、話しかけられる空気ではない。
モリーは逆に、彼女を見ないようにしているようだ。
「おかえりなさい」
彼女は机の前までくると、ダンブルドアに向かってまず言った。


「ハリーたちが秘密の部屋に?」
「どうやら、ロックハート先生も一緒のようじゃ」
「部屋の入り口もわかっているのに、どうしてこんなところでゆっくりしているんですか」
「ここで彼らが戻ってくるのを待っておるんじゃよ。助けが必要なら、フォークスが力になるはずじゃ」

ダンブルドアが、あそこまで落ち着いているからこそ、ウィーズリー夫妻もいまなんとか正気を保っていられるようなものだった。
子どもたちは命がけで戦っているだろうに、その青い瞳は、まるで彼らが戻ってくる未来まで見えているかのようだ。
アーサーも信じたかった。子どもたちが全員、無事に帰ってくることを。

「私は、医務室の様子をみてきます」

てっきりこの部屋に残るものだと思ったが、彼女が言った。踵を返し、もう扉のほうへ歩きはじめている。
すれ違いざま、また目が合った。正確には、彼女はアーサーに寄りかかる、モリーのことを見ていたようだった。
「バジリスクの犠牲者たちが、目を覚ますころじゃろう」
ダンブルドアに目で頷き、彼女が出ていく。室内はもとの静けさに包まれた。
ダンブルドアは、なにも言わなかったが、うずうずしているアーサーを見透かしたように笑いかけてくる。
少し顔を赤くしながら、しかし我慢できずに、彼女を見た瞬間から訊きたかったことをアーサーが口にした。

「彼女は本当に、あの姿のまま、眠っていたんですね」
「そうじゃよ、アーサー」
「十年ものあいだ」
「驚いたかい」
「はい」素直に答えるが、複雑な気持ちでもあった。

「じゃあ、あのひとが彼女を…」

アーサーが言い終わる前に、「やめましょう」とモリーがつらそうに遮る。
「やめましょう、あなた、その話は」
湿っているのに擦れていて、もう何年も声を出すことを忘れていたような声だった。

「彼女だって、してほしくないとおもうわ」

肩を寄せ合う夫妻に視線を向けたまま、マクゴナガル先生が静かに口を開く。
「本人は気づいていないでしょうけど、あなたがいなくなって一番参っていたのは、あの子です」

ダンブルドアはどこか哀しげに、「そうか」とだけ応える。寂しそうな笑みを浮かべていた。

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