09 満天の星

コーネリウス・ファッジは、それこそ石のように気が重かった。ホグワーツで起きている怪事件の被害者が、管理人の飼い猫やゴーストを除いても、四人目に達したのだ。その四人が全員、マグル出身者である。
教室の移動に教師が付き添うなど対策が立っているが、世間の目がある以上、魔法省もなにかしら手を打たなければならなくなり、大臣直々、ホグワーツ城に出向いてきたというわけだ。
理事会からのプレッシャーと、ファッジを見た瞬間、丁寧に迎えてくれたがどこか慇懃無礼なダンブルドアの狭間で、また胃が痛くなる思いがした。

「彼女は、ここで元気にしているかな」

ハグリッドの小屋へと続く校庭の小道をいくあいだ、ファッジは場を取り繕うようにして、隣のダンブルドアに話しかけた。遮る屋根もなく、溢れんばかりにちりばめられた幾千もの星の輝きに、夜空は闇より藍色を帯びている。杖の光も不要だ。

「元気じゃよ。よく働いてくれておる」
「昔から仕事熱心だったからね」
「会っていくかい?」
「いや」思わず即答してしまい、のどの奥で舌を打った。
「いや、いまは、やめておこう」

ダンブルドアが可笑しそうに目を細めるので、心を見透かされたような気分になる。
自分でもなぜかわからないが、どうせ隠し事をしても無駄ならば、とそのとき、どこからともなくファッジの中に勇気が湧いていた。
拳を口元に作り、咳払いをする。
「その彼女のことなんだが、ダンブルドア」声の調子を整えると、思いきって訊ねた。

「彼女を、ハリーのそばに置いて本当に、大丈夫かね」

何度もこう言って、確かめたことなのだが。
ダンブルドアは、しかし平然と、ファッジの心配など気にもかけていない様子だ。彼女が長い眠りから目が覚ましたその日のうちに、彼女をホグワーツで預かるとファッジに宣言したときと同じ、当然のように悠然としている。

「ハリーは、彼女に懐いてるようじゃよ」
「そうではない。ハリーが彼女に懐いていようが、問題は彼女のほうではないか」

いまさらこの議論をぶり返したところで、ダンブルドアの意志は変わぬとわかっていた。わかっていて、ファッジの声に力がこもる。

「コーネリウスよ」

ふいに、ダンブルドアが足の速度を緩めたので、つられてファッジも立ち止まった。
「アルバス?」
ファッジを見据えるダンブルドアの瞳に、天空の星を映したかのような瞬きが、揺れる。

「彼女は去年、ハリーを命懸けで守ろうとしてくれたんじゃ」

それでじゅうぶんではないか、と穏やかに諭すようにも、これ以上は話したくないという拒絶にも聞こえた。ダンブルドアがファッジの前を通り過ぎ、闇を祓うように明かりを灯す森小屋のほうへ向かう。
ファッジはしばらく、その場から動けない。手に持っていた、お気に入りの山高帽を頭にのせ、帽子のつばをぐいと引っ張って深めに被り直す。
そうしてもう一度、空を見上げたら、だれかの願いをのせた星が流れて消えた。

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