02 有名人たるもの

翌日、彼女は、校庭で暴れ柳の治療をするスプラウト先生を手伝っていた。先生の言うとおりに包帯を巻き、固定して、折れた枝を修繕していく作業は順調で、一時間目が始まる前になんとか終わりそうだ。
だが、さっきからその周りをうろついて、自分が格闘した暴れ柳はもっと狂暴だったと己の武勇伝を喋り続けるロックハート先生に、いい加減うんざりもしていた。
治療を手伝う様子はなく、スプラウト先生の指示に、現場監督のようなていで頷いている。

「いや、しかし、あなたのような女性がこの学校にいらっしゃるとは、思いませんでした」

スプラウト先生が、あきらかに呆れたような顔でそっぽを向く。ロックハート先生は彼女の肩に手をまわし、馴れ馴れしく抱き寄せてきた。
手元が狂い、吊るしかけの枝が変な方向に向いた。

「…ロックハート先生、ちょっと邪魔なんですが」
「でもね、私は昨日、大広間であなたを一目見たときから、すべて分かっていましたとも」

彼女の言葉など、聞こえていないようだ。
これはいったい、どうしたらいいんですか、というつもりでスプラウト先生に視線を送るが、先生は彼女に向かってひとつ頷くと、それっきり無視を決め込んでいる。ロックハート先生が彼女に気を取られているうちに、自分で治療を済ませてしまうつもりらしい。
これでは自分がなんのためにここにいるのか、わからない。

「私が、あなたをもっとうつくしくする魔法をかけて差し上げましょう」
「いえ、結構です」
「さぁ、笑って! そうです、あなたに足りないのは、笑顔です! ほら、こんなふうにね」

素晴らしい歯並びを見せつけ、ロックハート先生は爽やかに笑ってみせる。完璧なウインク付きだ。
彼女は、自分が間違えて日本語を話しているのかと思った。それほどまでに言葉が通じないのだ。
さぁ、さぁ、と先生が急かしてくる。ウィンクなんて、生まれてこのかたしたこともないのに。
そこで、スプラウト先生が「行きますよ」と声をかけてくれた。治療が済んだようだ。

「急がないと授業が始まります」

治療用具を片付け、すでに温室に向かいはじめている、スプラウト先生に追いつく。
「さっき、私を見放しましたね」
すっかり困った口調で告げ、先生が抱えている包帯やら薬やらを彼女は代わりに持つ。先生がにこやかな笑みを浮かべて、ぱちんと片目を閉じてみせた。

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