01 ダイアゴン横丁

ハーマイオニーが、手首の時計を見て「そろそろ時間かしら」とひとりごとのように言った。
「時間?」
「彼女が来る時間よ。きょうに合わせて、待ち合わせしているの」

ハリーにとって、それはうれしいサプライズだった。思わず、「彼女も、ダイアゴン横丁に?」と訊き返している。

「もう来ているはずよ」

それを聞き、ヤモリみたいに“高級クィディッチ用具店”のウィンドウにへばりついている、ロンの手を引っ張った。
「ああ、なんだよ、ハリー。急にどこへ行くんだい」

多くの子が待ち望み、多くの大人が羨ましがる夏休みも、ハリーにしてみれば、ほとんど地獄の毎日だった。バーノンおじさんは、ホグワーツの教科書も、杖も、箒も一切合財、ハリーがプリベット通りの家に足を踏み込んだ瞬間、トランクごと取り上げたからだ。休暇中、宿題は一家が寝静まった夜中にこっそりしなくてはいけなかったし、かごの中にずっと閉じ込められていたヘドウィグは、ストレスで抜け毛がひどく、飼い主との関係も荒んだ。自分をダーズリー家から連れ出してくれた、ウィーズリー兄弟に、ハリーは心から感謝している。
彼女に会えるのは、新学期が待ち遠しい理由のひとつだ。
そのとき、ハリーは反射的に、頭を抱えたくなった。彼女は、もしかして僕が魔法省から警告を受けたことを、もう知っているのだろうか。少なくともダンブルドアは知っているに、ちがいない。あのひとは千里眼だとウィーズリー氏が言っていた。
ドビーのことを思い出すが、ハリーはまだ、あのまったく理不尽なしもべ妖精が、ハリーのこの一年をどれくらい掻き回すか、知る由もない。

「私、手紙を書いたのよ」

三人で“フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラー”に向かいながら、新学期が近いせいか、溢れかえる人の隙間を縫うようして前に進む。

「彼女って、頼りになるけど、なんだか、生活感がないのよね」
「きみが言いたいこと、僕もなんとなくわかる気がするよ」
ロンがようやく自分の足で歩きはじめ、ハリーは手を放した。
「かんたんに言うと、僕のママとは、正反対なかんじ」
「休暇のあいだ、彼女は自分の国に帰ってたのかな」ふと気づき、ハリーが疑問を口にする。
「ずっとこっちにいると言ってたわ」
「そうなんだ」
「一人暮らしなんですって」
「へぇ」

ハーマイオニーの口から出てくるのは、ハリーが知らないことばかりだった。

「よく、ぼーっとしてるから、手を引いてあげたくなっちゃうのよね」

風になびく髪を耳にかけながら、ハーマイオニーが言った。

ハリーたちが到着すると、彼女はすでにテラス席にひとりで座っていた。ほらね、というように、ハーマイオニーがハリーを見る。
人通りを眺めている彼女は、たしかに、ぼーっとしている。明るい陽射しを浴びて、絹のような光を帯びた白のシャツブラウスは、色鮮やかなローブが蔓延する人混みで、むしろ目立っていた。三人に気づくと、彼女は店の外に出てきて、「ひさしぶり」と挨拶した。相変わらず、眠たげな目をしている。
「元気だった?」ハーマイオニーが笑顔で訊いた。

「元気だよ。急に手紙なんてくるから、おどろいたよ」

そう言ってから、彼女がハリーとロンを振り向いた。
彼女がなにか言う前に、「ひさしぶり」と声をかけたハリーは、こらえきれず笑顔になっていた。

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