12 ユニコーンの血

「それから、その音が聞こえたあと、ケンタウルスに会ったんだ。はじめて見たよ」

自分たちの組であったことを話しながら、ハリーは彼女と一緒に歩いた。マルフォイは少し離れたうしろを、ついてきている。
目に止まる一角獣の輝く血は、血痕から血痕への間隔が、だいぶ狭まってきているように感じた。力尽きて、動きが鈍くなっているのかもしれない。月明かりの下で見つけると、真珠を溶かしたような血液は、乾ききっていないようにも見えた。
「初対面のケンタウルスは、どうだった」
彼女は、目で血痕を追いながら、ハリーに話の先を促す。

「なんだか、謎めいてた。星をずっと観察していて、ハグリッドが一角獣のことを訊いたんだけど、教えてくれなかった」
「ケンタウルスは賢いけど、思慮深いからね、私たちに教えてくれることは、いつも少ない」
「でも、火星が明るいって」

彼女が空を見上げる。ハリーも、上を向いてみた。
小道の上空にも周りの木の枝が迫り出していて、夜空からハリーたちを覆い隠してしまっていたが、隙間を縫うように星が見えた。
「むかしから、火星は不吉な星と言われているし、なにかよくないことが起こる、前触れなのかもしれない」


もうだいぶ歩いて、森の奥までやってきた。ふいに開けた平地に出たところで、ハリーたちはついにそれを見つけた。
「見たくなかったら、無理することないよ」近づく前に、彼女が他のふたりに言う。
血溜まりに、一角獣が横たわっていた。死んでいる。ハリーは、こんなにうつくしく、こんなにかなしいものを見たことがない。
一歩、前に踏み出したそのとき、聞き覚えのある、マントを引きずるような音がした。ハリーの足はその場で凍りついた。平地の端が揺れた。そして、暗がりのなかから、頭をフードにすっぽり包んだなにかが、まるで獲物を漁る獣のように地面を這ってきた。金縛りにあったように立ちすくむ。
彼女がハリーの腕を掴んでいた。ゆっくりと引き寄せ、耳元でそっと囁く。静かに。
マントを着たその影は、一角獣に近づき、傍らに身を屈め、ハリーたちの目の前で傷口からその血を飲みはじめた。

「ぎゃああァア!」

マルフォイの声だった。絶叫して逃げ出していった。
彼女がハリーの腕の掴んだまま、マルフォイが走って行ったほうを振り返る。そのあいだに、フードに包まれた影が頭をあげ、ハリーを真正面から見据えた。一角獣の血でマントが汚れている。影は立ち上がり、ハリーに向かって滑るように近寄ってきた。あまりの恐ろしさに動けなった。
そのとき、いままで感じたことのないような激痛が、頭を貫いた。額の傷跡が燃えているようだ。
目が眩み、地面に倒れかかったところを、だれかに支えられる。彼女にちがいない。ハリーは抱きとめられていた。細い腕のなかに身体が傾れ込み、そのまま頭をうずめた。
後ろのほうからひづめの音が聞こえる。彼女がハリーの頭を抱くようにすると、姿勢を低くした。その上を、なにかがひらりと飛び越えていく気配があった。
彼女はとてもなつかしい匂いがする。割れそうな頭の隅で、そんなことを考えていた。

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