11 禁じられた森

彼女は、マクゴナガル先生に呼び出されていた。
卒業した身とはいえ、先生に呼び出されるのは、いまだ慣れることがない。後ろめたいことはないか、思わず、自分の胸に訊ねている。
たとえなにもなくても、マクゴナガル先生と向き合うと、自分がなにかしくじったような気がしてくる。
内心が落ち着かない彼女を室内に招き入れ、マクゴナガル先生は紅茶を出しながら、面倒見よく微笑んだ。

「どうですか、仕事には、慣れましたか」
「はい、なんとかやっていると思います」

華奢な細工がうつくしいティーカップを見つめながら、応えた。
実は彼女は、昔から紅茶は苦手だった。しかし、言えない。身体の内側に汗をかいた。いまさら言いだせず、残すこともできず、「いただきます」と少しづつ喉に通していく。

マクゴナガル先生はなにか言いたげに彼女を見守っていたが、「数人のグリフィンドール生が起こした騒ぎは、あなたの耳にも入っていますね」と言ってきた。

「深夜徘徊したことですか」

ホグワーツは人里離れた場所にあるせいか、その城壁の内側で起こったことや、噂は、あっという間にみんなが知っていることになってしまう。ハリーたちが零時も過ぎた深夜、寮の外でフィルチさんに見つかり、グリフィンドールがこっぴどく減点されたらしいことも、たちまち彼女の耳にはいってきた。
「彼らに処罰を与えます」マクゴナガル先生が言った。

「処罰」
「禁じられた森へ、怪我を負った一角獣を探しに行かせることにしました」

彼女は驚いて、揃いのソーサーの上にカップを戻した。「ちょっと危険すぎませんか」
「もちろん、生徒たちだけで行かせません。ハグリッドに付き添ってもらいます」
それを聞いて、一息つく。そもそも、怪我をした一角獣のことは、自分とハグリッドが探しに行くことになっていたくらいだ。
赤く透き通った飲み物を再び口元に近づける途中で、「あ」と声をあげた。「あなたも一緒に」とマクゴナガル先生が、ちょうど言った。
「え、やっぱり…」
「あなたも、捜索に同行してください」
「はい、ですよね」
「頼りにしていますよ」

先生の目に、厳格な光が宿っていた。目、どころではない。表情の隅々が引き締まったようだ。
あれ、と思った。昔はそんな顔をされると、わけもなく緊張したものだ。なのにいまは、厳しくも、ひたすら生徒を想う先生の顔にしか見えなかった。
どおりで、先生に頭が上がらないわけだ、とようやく知る。気づかせないくらい深い愛情に裏付けされた厳しさには、とてもかなわない。

「くれぐれも気をつけて。一角獣を襲った犯人は、いまだにわかっていませんから」
「はい」

答えながら、一角獣の血を欲しがるなんて、たったひとりしかいないような気がする。ここには、賢者の石もある。
カップの底に溜まった、夕日色のような液体に、彼女の輪郭がゆらゆらと浮かんでいた。ずっと見つめているうちに、だんだん自分の顔つきと変わっていく。ほとんど別人だ。しかし、影に覆われていて、はっきりと顔が見えない。
まるで、自分自身まで、いったい何者なのかわからなくなる感覚に陥った。

「あなたは」とマクゴナガル先生の声で、はっと我に返る。
「あなたは、グリフィンドールに恥じない生徒でした」
「……え」
「あなたがどんな姿でいくつになろうと、私の教え子に変わりありません」

どうして急にそんなことを言い出すのかわからなかったが、マクゴナガル先生は感傷的なのを隠そうともせずとても真剣だったので、彼女は戸惑いながらも、「はい、先生」とうなづいた。

「でも、ハリーたちはどうして、夜中に寮を抜け出したりしたんでしょう」
「ドラゴンがどうこう言っていましたが、おおかた、マルフォイを出し抜こうとしたんでしょう」
「マルフォイを?」
「ドラコ・マルフォイも処罰の対象です。お願いしましたよ」

マクゴナガル先生は、そうしてやっと、はじめて自分のカップに手をつけた。

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