13 生真面目な彼

「スネイプ先輩は、彼女と付き合っているんですか?」

レギュラス・ブラックは、そういうことを生真面目な顔で訊いてくるような男だった。
決して気が弱いというわけでもないのに、仲間からいつもどこか一歩引いた場所にいることが多く、あのシリウス・ブラックが兄だというのだから、さぞかし弟も高慢で自分勝手なやつなのだろうと想像していたスネイプは、彼を知れば知るほど、拍子抜けした。それどころか、真面目でどこまでも礼儀正しいレギュラスに対して、「あんな男の弟とは、きみも苦労しているな」と同情を寄せるようにもなっていた。

そんな関係ではない、とスネイプは言い返す。天気のよい日、中庭で彼女と一緒になることはあったが、示し合わせたことはない。このころは、彼女の想いに気づくことすらなかった。
「あ、そうなんですか。すみません」レギュラスはやはり生真面目そうに落ち込んだ。気を遣わられ、謝られても、スネイプのほうが困る。

「まぁ、リーマス・ルーピンと付き合ってるって噂ですしね」

そんな噂があることは初耳であるが、別段、驚くようなことでもなかった。彼らを見ていれば、だれにでもわかることだ。
大広間で夕食の時間だった。スネイプとレギュラスの向かいにいた生徒が、先に席を立ったので、グリフィンドールの長テーブルにいる彼らがよく見えた。
夕食を終え、ルーピンの飲んでいる紅茶を一口、味見して、彼女が顔をしかめる。相手が可笑しそうに笑っているのを見て、一緒になって笑っていた。混雑しているわけでもないのに、互いの肩の先が触れ合うような距離でだ。
「見ていると、不思議な気持ちになりますよね」レギュラスが続ける。視線は彼女のほうに向けたままだ。
「あんなふうに笑っていますけど、生きていれば、つらいこともあるだろうに、謎めいていると思いませんか」
スネイプはそこでようやく、自分の食事から目を離し、隣の彼と向き合う気になった。その発言こそ、謎めいていたからだ。

「ああいうのを、神秘的っていうんでしょうか。ほら、東洋の方ですし、東洋の神秘って、言葉もあるじゃないですか」

レギュラスはその生真面目な性格ゆえに、本気で言っているらしい。
彼女のことをそう言ったのは、そうか、きみだったな。スネイプは思わず自分の膝を叩きそうになる。
当時は、そんな彼を鼻であしらった。「そんな大層なものではないだろ、あいつは。僕には、ただ……」
ただ、そこでうまく形容する言葉が出てこないことに気づき、「ふわふわしているようにしか見えないぞ」と幼稚な言い方しかできない自分が、情けなくなる。
「ふわふわ」レギュラスが鸚鵡返しにして、案の定、「それだと猫を、にゃんにゃんって呼ぶ、赤ん坊みたいですよ」と噴き出した。

彼の無邪気な笑い方を目の当たりにするたび、普段の大人びた彼はだれかに強要されたものなのではないか、という気がする。彼の家庭環境とは無関係な自分まで、胸が疼くような心地になる。女子生徒の視線がいちいち集まるので、そのせいもあるかもしれない。
「そうか、そうですか」家名も血筋も鼻にかけたことのない彼が、そう言って、人前で優越感のようなものを滲ませた。

「スネイプ先輩の知らないあのひとを、僕は知っているのかもしれませんね」
「たとえば、どういう」
「たとえば彼女は、卒業後、癒者を志していましたけど」
「そうなのか?」

進路の話は、意図的に避けていたので、もちろん彼女がどう考えているかなど、スネイプは知らなかった。でも、適職な気がする。傷ついた者を助け、癒す仕事は、彼女に合っている。
「でも最近、思うところがあって、進路も変更したみたいですよ、闇祓いに」
平然としているレギュラスの整った顔を、スネイプは穴が空くほど見た。
「マジか」思わず溢すと、「マジです」と彼も間髪入れず生真面目な顔でうなづく。きみが言うなら、と無条件で信じそうになる。「本人が言っていましたから」とレギュラスは決定的だと思えることも口にした。
自分を差し置いて、きみたちはいつの間にそんな話をするようになったのか、とスネイプに素朴な疑問がよぎる。彼女の口から彼の名前を聞いたこともない。が、そこまで立ち入るのはためらわれた。嫉妬していると思われるのが、嫌だったのだ。

「なんで闇祓いなんかに……」
「だから、言ったんです」
彼が肩をすくめる。「どうしてわざわざ、つらいほうへ、逃げもせず、流されていくんでしょう。そして、仲間の前では平気そうに笑っている。どうしてですか? 僕には不思議で仕方がない。東洋の神秘ですよ」

東洋は関係ないのでは、と指摘しても生真面目な返答があるだけだろうし、代わりにではないが、ため息が出た。スネイプの複雑な胸中を知ってか知らずか、僕が話したことは内緒ですよ、と隣ではレギュラスが口元に指を立てている。すっかり大人びた顔に戻っていた。


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