09 予感

「明日だね」

あれから経つが、足の傷はよくなったのか、いつもの颯爽とした足取りで地下牢へ向かうスネイプを見かけた。後ろ姿に声をかけた。足音が止む。
振り返ってもらえる気配はなかった。

「何のことだ」
「グリフィンドールとハッフルパフの試合。審判するって」
「…あぁ」

スネイプの前まで回り込もうか、と迷った。だが、わざわざ振り向かないのは、出来るだけ顔を合わしたくないその証拠ではないか、と推察してしまうと、足が動かない。
そのまま口だけ動かした。

「無茶だとおもう」
「審判が?」
「スネイプは、ほら、あんまり、箒が得意じゃないから」
「あのころの我輩とはちがう」

彼女は驚いて、「どこが」と訊いた。その反応に、スネイプまで驚いたかのように振り向いて、彼女を見る。
「スネイプは変わらないよ」
彼女が言うと、ほとんど戸惑いを隠せない様子だった。
「無茶はしないで」
いつか言ったせりふを繰り返す。
スネイプはやがて、挨拶もなく、再び歩いていく。黒い服の背中は暗い地下牢の中へ溶けていくように、見えなくなった。
スネイプは変わらない、私も。それが善いことなのか、あるいは不幸であるのか、彼女にはもうわからない。


「や、やぁ、こ、こんにちわ」

もう見えないはずの背中をいつまでも暗闇に見ていたら、声をかけられた。そのたどたどしい喋り方で見当はつきながら振り向くと、クィレル先生は居心地悪そうに手を揉んでいた。

「こんにちわ」
「こ、こんなところで、な、な、なにを」
「いいえ、なにも」

小さくお辞儀をし、立ち去ろうとしたところで、呼び止められる。
「はい」改めて向き合うが、しかしクィレル先生こそ挙動不審な様子で、目も合わせない。

「先生」
「え、え?」
「いま、呼びませんでしたか」
「わ、わわ、わたしじゃ、ないです」
「そうですか」

呼ばれた気がしました、と首をかしげる。
クィレル先生は相変わらず怯えていたが、彼女の挙動に注意を払いながら、しきりに頭に巻いたターバンを気にしていた。

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