07 Xmasの光と影

光や音や匂いや色が、急に無色透明になる。地上の生命という生命の息吹きを吸い取ってしまったかのように、冬の空は澄んで、特別うつくしいとおもう。
けれど、寒いのは苦手だ。
彼女は吐き出す息を白くして、足早に校長室を目指した。身体のあちこちが、軋むように痛む。体温を奪っていく寒風が細い身体にぶつかってきた。

「冷えてきたのう」

校長室に踏み入ると、片付いた大きな机の奥から、ダンブルドアが手招きする。「暖炉の近くにおいで。お主に見せたいものがあるのじゃ」
促されるまま、暖炉の炎に暖められた部屋を横切りながら彼女は、ダンブルドアの前に、毛布のようなものが畳まれて置かれていることに気づいた。

「それは」
「ジェームズから預かっておったものじゃ。そろそろ、ハリーに、返す頃合いかと思うてな」

“透明マント”を上から撫ぜる。彼女も思わず、こうしているとなんの変哲もないマントに、手を伸ばしていた。
まるで水に触れるような手触り……記憶ではなく、手のひらそのものがこの感触を覚えている。
「こんなもの」彼女は表情を変えなかった。
「ハリーに渡しても、どうするんですか」
「使い道は、ハリー次第じゃよ」
「なにか期待しているように見えます」
「必要なとき、賢く役立ててくれることを期待しておるよ」

ダンブルドアがなぜ、そんなにわくわくしているのかわからなかったが、不思議と違和感やもどかしさもなかった。
たとえば神の思し召しのように、自分には納得できないことは理解できないだけで、きっとなにか考えがあってのことなのだ。
「これを見せるために、私を」
「ふむ」ダンブルドアは雪をも欺く、銀髪の顎髭を撫ぜる。
「こないだのクィディッチのことは、お主も知っておろう」
「ハリーがスニッチを捕まえて、グリフィンドールが勝ったことでしょうか」
彼女が言ったとたん、ダンブルドアの碧い瞳がきらきら輝いた。
「稀に見る、見事なキャッチだったらしい。しかし、もうひとつのほうじゃよ」
「試合中、ハリーの箒が、急におかしくなったと聞きました」

外気との温度差のせいで、校長室の窓硝子は曇っている。ぼやけた薄い青色から、雪が降る気配はまだない。

「セブルスが反対呪文をかけていなければ、今頃も、ハリーは医務室じゃっただろう」

医務室どころか、下手をしたら死んでいたかもしれない。ダンブルドアの瞳から星のような瞬きが消えている。
もっとも偉大な魔法使いだと謳われる、このひとは、だれよりも強く、うつくしかった。こんな自分をここに置いてくれるくらい、どうしようもなく慈悲深いのだ。
そして、慈悲深いために、人一倍の悲壮を抱えて生きてきたのかもしれない。

箒に呪いなど半端な闇の魔術ではない、と経験上、知っている。そこまでして、いったいだれがハリーを傷つけようとしたのかはわからない。

「考えて、いい気持ちがするものではないの」

けれど、あそこにいただれかなのは、確かだった。
ダンブルドアが深い息を吐いた。マントを見ていた視線を持ち上げる。彼女はその瞳を両目で見つめ返した。

「次回はわしも観戦するつもりじゃ、お主にも、当日は競技場にいてほしい」

目を伏せたがすぐ、「わかりました」と応じた。

ホグワーツに忍び寄る闇の気配。

窓から見上げる空ばかりが、晴れ晴れしていた。

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