14 ダンスパーティー

鏡の前に立ち、今夜のダンスパーティに着ていくドレスを自分の身体に当ててみる。母が奮発して買ってくれた、ワンピース風のミニドレスは、ウィーズリー家では極稀な新品で、十三歳なりに大人っぽくて満足だったが、ジニーは当初ほどときめかなかった。
火が入った暖炉の前の肘掛け椅子を陣取って、クルックシャンクスが丸くなっている。ジニーが座ろうとすると、素早く飛び退いた。
しわにならないよう、ドレスを寝かしつけるように、膝の上に乗せる。

「私ってば、本当にばかだ」

居場所を奪われたクルックシャンクスが、ジニーの足元で重心を低くして、いまにもドレスの上に飛び乗ろうと構えている。足の裏を、そのくしゃくしゃの顔に向けると爪で反撃してきて、地味な攻防戦がはじまってしまう。
「そんなことを言っても」と絨毯の上に座りこんで、女性雑誌を読んでいたハーマイオニーが、首を骨折して動かせないひとみたいに、視線だけをこっちに寄越した。

「あなたはハリーを前にしたら、口もきけないじゃない」
「でも、もしかしたら、ハリーのパートナーになれたかもしれないのに……」

ハリーのダンスの相手がまだ決まっていないと知ったのは、ジニーがネビルの誘いを受けて了承したあとだった。兄のロンが、「ハリーはジニーと行けよ」と後押ししてくれたのも、そのときだ。
ネビルのことは嫌いではなかったが、憧れのひととダンスパーティに行けたかもしれない、と思うと、ジニーは嬉しい反面、泣きたくなる。

「それに、どうしてハリーは、チョウなんて誘ったのかしら……」

結局、ハリーはチョウに断られたらしいけれど、ジニーは落ちこんでいた。
伸ばしっぱなしの赤い髪を指でいじりながら、愚痴をこぼす。今夜のためにケアしてきたのに、枝毛を見つけてさらに憂鬱になる。

「ハリーはきっと、黒髪の子が好きなのよ。赤毛は不格好だもの」
「そんなことないよ」

すかさず否定したのは、ハーマイオニーのぼさぼさの髪をスリーク・イージーの直毛薬で撫でつけている、彼女だ。ジニーの髪はきれいだよ、と赤毛の肩を持つような言い方をする。
ジニーは、チョウと同じ黒髪の彼女を、改めて見た。
ハーマイオニーのうしろで、ベッドに腰掛けている。無意識に組まれた足が普段より艶めかしいのは、彼女がスカートを履いているからだろう。タイトな黒で、腿の半分しかない、短めの丈だ。
ほどよく引き締まった脚の流線を、同じ黒でも光沢感のあるタイツがなぞっている。
上は白のブラウスだったが、彼女がいつも緩く着こなしているそれとは、形が微妙に違う。肩の細さや胸のかたち、お腹の薄さがありありと浮き彫りになっているサイズだった。

「……きれいな脚ね」

ドレスを抱えてハーマイオニーと彼女の部屋を訪ねたとき、ジニーは彼女の格好に感嘆して言った。
同じく、今夜の準備をしていた彼女は突然の訪問者に、「うちは美容室じゃないんだけど」と驚きつつもふたりを招き入れ、「全然、きれいじゃないよ」といつにも増してきれいな顔をしかめた。
月並みの謙遜というより、誤解を恐れるかのようだった。
けれども、左耳にだけ髪をかけたあたりから漂う、その洗練された感じが、ジニーにはうらやましかった。

「だからね」とハーマイオニーが諭すように言う。
「ハリーの前で自然に振る舞えるようになれば、ハリーもあなたを放っておけないわよ」
ジニーは不貞腐れるしかなかったので、「ハーマイオニーは、クラムに誘われてよかったわね」と話を変えた。

「え、クラムくん? ハーマイオニーは、ロンと行くと思ってた」

直毛薬でベタベタになった手をタオルで拭い、つぎに彼女は、ハーマイオニーの髪に櫛を通しはじめる。
「ここからどうするの?」
ハーマイオニーが、雑誌の頁を指差して、彼女に見せている。「え、これ? できるかな」と彼女は困惑する。

「クラムくんか、よかったね」
「あのひとが代表選手だから?」

照れ臭いのを隠すためか、ハーマイオニーは愛想のない言いかただ。

「才能を鼻にかけない、とてもいい子らしいよ」
「だれが言ってたの?」

ふたりの会話を横目に、曇った窓の向こうで日が暮れはじめており、ジニーは早く自分の髪の番が回ってこないかと焦れったくなってきた。

「ポリアコフくんが言ってた」
「だれ?」ジニーが口を挟む。
「このひとに一目惚れしたっていう、代表団の男の子よ」
「えー、なにそれ。面白そうね」
「でも彼女は、あんまり乗り気じゃなくてね……」
「ポリアコフって、どんなひとなの?」

女の子の華やかなお喋りがはじまり、彼女はハーマイオニーの髪に櫛を通しながら、苦笑を浮かべている。

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