13 予期せぬ課題

ハリーは、今年ほどクリスマスがこの世からなくなればいいと思ったことはなかった。
休暇前に出された大量の宿題を抱えて、ひぃひぃ嘆いている生徒たちを横目に、十二本の立派な樅の木が大広間に運びこまれ、しかしホグワーツ城はすっかりクリスマス気分だ。今年も彼女が飾りつけを担当している。
ホグワーツの教職員は、他校の客人をあっと言わせるために、クリスマスにはホグワーツ城を最高の状態にするつもりらしい。ツリーの飾りは、赤く輝く柊の実や、本物の金色のふくろうなど、例年に比べて盛り沢山だった。
あれでは、飾りつけが完成するのが先か、彼女が投げ出すのが先か、ハリーはほとんど本気で心配した。
人の心配をしていると、少しばかりだが、自分に降りかかってきた予期せぬ課題を忘れることができた。

「食べる?」

宿題の山から離れ、そばにやってきたハリーに気づいて、彼女がクリームサンド・ビスケットを差し出してくれた。「ありがとう」と言って、口に運ぼうとしたら、「やっぱりだめ」と手で遮られた。

「え?」
「それ、双子から取り上げたやつだよ」

指でつまんだビスケットを、よく見てみる。

「これ、カナリア・クリーム?」

見覚えがあった。食べるとたちまち、背中から羽が生えるのだ。
ほかにも舌が伸びる飴など、双子が怪しげなお菓子と交換で生徒からお金を貰っているところは、ハリーも談話室で何度か見ている。
「自分たちで開発したんだって」と彼女が、意外だったが、感心したように言った。
「生徒に売るな、って注意したんだけど」
金色のちいさなふくろうが、一斉に羽を広げ、音もなく飛び立つ。それぞれはツリーの枝に止まった。巣立ち、自分の持ち場に戻るかのようだった。

「えらいね、ふたりは夢を叶えようとしている」
「双子のことを褒めるなんて、珍しい」
「ハリーは、将来の夢とかあるの」
「えっと……」

急な話に、ハリーは口を閉ざした。
樅の木を見上げ、将来のことを考えてみる。
来年は、進路に重要なOWLがあるとかで先生たちに言われるがまま、勉強漬けではあるけれど、戸惑いのほうが大きかった。
だけどまだ、四年生は許されている感がある。卒業なんて、いまは遥か先のことに思える。ロンやハーマイオニーだって、将来のことをちゃんと見据えているとは考えにくい。
だが、この言い知れぬ不安は、なんなのだろう。じわじわと迫ってくる、見えないなにかに向かって、待って待って、と両手を突き出したい気分になる。
向かうべき先が見えない。自分はまだ何者にもなれず、何者になるべきなのかもわからず、不完全で、心許ない。
それでもいずれは、ここを卒業する日がやってくる。
ひとりじゃこんなにも不安なのに、ちゃんとやっていけるのだろうか。ひとりで、立派に、自分の道を見つけ、進めていけるだろうか。
当たり前のように毎日、顔を合わしているけれど、卒業したら、彼女とも会えなくなるかもしれない。
ずっといまのままでは、いられないのだ。

「でもハリーは、まず第二の課題をパスしないとね」

樅の木から視線を戻すと、彼女がハリーに向かって、微笑みかけていた。

「……うん」

ずっと一緒にいられたらいいのに。この笑顔と。みんなと。
昔、彼女もそう思ったことがあったのだろうか、とぼんやり思った。

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