05 ハロウィンの夜

深紅のビロードのカーテンを見つめている。四本柱の天蓋つきベッドをぐるりと囲う、カーテンだ。
カーテンの外には、同じようなベッドが五つ、置いてある。その一つでロンがまだ寝ているだろう。ハリーが起こさないと、彼はいつまでも寝ているだろう。
寝返りを打ち、仰向けになる。ハリーは、そのまましばらくぼーっとしてしまった。

ハロウィンの朝だった。つまり、ホグワーツに来てから、二ヶ月も経とうとしている。
まだ、二ヶ月しか経っていないのに、プリベット通りよりも、城のほうが自分の家だと思ってしまうくらい馴染んでいたが、まるで違和感もなかった。それでも、たまにふと、我に返るときがある。
授業のほうは、基礎がだいぶわかってくるとおもしろくなってきたし、毎日たっぷり出てくる宿題をこなしているうちに、一日なんてあっという間に過ぎてしまう。
さらにハリーは、クィディッチの練習に、週三回も参加するようになっていた。

「一年生がクィディッチのチームに入れるなんて! しかも、シーカーだって?」

ロンは、ハリーがマクゴナガル先生にもらった競技用箒、“ニンバス2000”を持たせてもらうたび、そう言って感動した。
「これもドラコ・マルフォイのおかげさ」ロンと目が合い、にやりと笑ってしまう。そう余裕で言うのがいいストレス発散だった。


巨大なかぼちゃが不気味な笑みを湛え、何千ものこうもりたちの羽ばたきでひしめく。ホグワーツの大広間はオレンジと黒に彩られている。ハロウィンだから、夕食に出てきた料理のほとんどがかぼちゃ料理だ。そのバリエーションの豊富なことに感心を覚える。
肩を指先で叩かれる感触があり、軽い気持ちで首だけ振り返った矢先、ハリーは口に含んでいたカボチャジュースを噴き出しかけた。
「…大丈夫?」
背後に立っていた彼女が、心なしか身体を引く。ハリーの喉が、ごきゅん、と変な音を立てた。
胸を叩き、「だいじょうぶ」とようやく息を吐く。
「食事中に、ごめん。驚かせてしまったみたい」
「ううん」ハリーは慌てた。「ぜんぜんだよ、ぜんぜん。ど、どうしたの?」
「あの子、見てない? ハーマイオニー」
「え、ハーマイオニーなら…」

言いながら、つい隣のロンのほうを見た。ロンも気まずそうにハリーを見ていて、いまふたりはまったく同じことを考えているとわかった。
「わかんない」ハリーが答える。「今日は、午後から、僕たちも見てないよ…」
「そう」
「どうして僕に?」

どちらかというと、僕たちは仲良くない。きょうだって、陰口を本人に聞かれてしまったのだ。

「ハーマイオニーが、よくふたりの話をするから」

そう言って、彼女はロンのことも見た。同じ黒い瞳をハリーはほかにも知っているが、ハグリットのような温かみがなければ、スネイプのように暗く冷たいわけでもない。彼女の瞳は、限りなく純粋に近く、ただ相手を視覚するためのもののようだ。
「それは」ハリーはどきどきしながら口にする。「いい話じゃあ、なさそうだね」
じっと見つめる彼女が、少し笑ったように見えた。
「そうだね」
興味なさそうに首を傾げる。それだけ言って行こうとするのを、ハリーは呼び止めた。

「ハーマイオニーに伝言があるなら、あの、伝えておくけど…!」

ちらりとこっちを向いた彼女が、気のないふうに手を振る。「ありがとう、ハリー。とくにないからいいよ」
上座のほうへ歩いて行くと、彼女はレイブンクローの生徒につかまり、なにか話している。ハリーを取り巻く人の話し声や、食事の音に掻き消されてなにを話しているのか聞こえなかったが、耳には彼女が呼ぶ「ハリー」という単調な声が、残っていた。
話しかけられたことが、名前を呼ばれたことが、無性にうれしかった。彼女に名前を呼ばれると、自分は特別な存在だと感じるのはなぜなのだろう。
額の傷跡を周囲からじろじろ見られるときを除いて、そんな気持ちになるのは、はじめてのことだった。

「彼女って、人間なのかな」ぼんやりしているハリーの横で、唐突にロンが言った。
「だって、そばにいると、冷気みたいなものを感じない? 人間より、きっとゴーストに近いよ。まるで気配がなかったし」
彼の向かいで食事していたネビルが、身を屈めていた。テーブルの上に乗り出す。どうやら話が聞こえたらしく、「ハーマイオニーなら、今日の午後からずっとトイレにこもってるよ」と声を潜めた。

「そこで、ずっと、泣いてるみたい」

知りたくなかった、とハリーはすぐ思った。ずっと姿を見えないことに気づいていたが、その原因は自分たちの陰口にあるような気がしなくもなかった。とにかく後味の悪さを感じる。
「あのふたり、仲がいいのかな」ハリーは、ちょっと不安になる。
「どうなんだろう」
ロンは興味なさそうにもう食事を再開していた。だけど、どこか、せいいっぱいハーマイオニーを気にしないよう、意地を張っている様子にも見えた。「ネビル」と、持っていたフォークで正面を指差す。
「知ってたなら、彼女に教えてあげたらよかったのに」
「で、でも、なんだか、怖いから…」
「彼女に助けてもらったじゃないか」とハリーが言いかけた、そのとき、クィレル先生が、血相を変えて大広間に駆け込んでくるところだった。

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