11 第一の課題

「いいから、来るの!」
「や、やめてくれよハーマイオニー」

ホグズミードから帰ってきたのか、騒がしい声は部屋の外からすでに聞こえてくる。どうやら、嫌がっているハリーを、ハーマイオニーが無理やり引っ張っているらしい。

「私はもう、我慢の限界だわ」
「悪いのは僕じゃない」
「仲直りしようとしない、あなたたちはふたりとも悪いのよ」

背後の扉が勢いよく開かれ、ハーマイオニーのうんざりした声が空き教室に響いた。

「もう、どうにかして!」

彼女は眉を困らせたまま、ふたりを振り向いた。

「ロンがいなくて淋しいくせに、仲直りしないの」

ハーマイオニーは、恐らく彼女へのお土産のバタービールを、机に叩きつけるように置く。仲違いしたままのハリーとロンに板挟みにされて、だいぶストレスが溜まっているのだろう。

「あなたからも言ってよ」

彼女から言えば、ハリーが折れると信じているかのような言い草だった。
彼女はうなづき、ハーマイオニーに言われるがまま、気まずそうにしている、ハリーのほうへ視線を移す。

「仲直りしたほうがいいよ」
「僕からは絶対に、謝らない!」

「だって」とハーマイオニーに向かって、首を振った。「これは手強い」
あぁ、もう!とハーマイオニーが地団駄を踏む。
それはしかし、ハリーの強情さより、もしかしたら彼女の役立たずぶりに癇癪を起こしたのかもしれない。

彼女は危うく、「そんなことより」と言いかけたのを飲みこみ、「ハリーは、第一の試練の対策はできた?」と訊ねた。言い終わる前に、あぁ、なにもないんだな、とわかった。ハリーとハーマイオニーの暗い顔を見て、彼女まで不安になる。

「試練の内容もわからないのに、対策なんて立てようもないよ」

それもそうだ、と彼女も肩を落とした。
「チェスをしていたの? ひとりで?」
机の上のチェス盤を見て、ハーマイオニーが不思議そうに言っている。

夕食の時間が近いので、ふたりは長居しなかった。
教室を出ていきかけ、ハリーがふと踵を返し、「今夜」と声を低くして、こそっと彼女に言った。

「今夜、どういうふうに現れるかわからないんだけれど、シリウスおじさんと、談話室で待ち合わせてしているんだ」

こないだは、シリウスが行動を起こすことをあんなに気に病んでいた様子だったのに、そう言うハリーの表情はうれしそうに見えた。

「よかったらきみも、談話室に来て一緒に会わない?」
「今夜は用事があるから」

「ドラゴンの搬入に、立ち合わなくてはならないから」と言いそうになる。
ハリーは、残念そうに肩を落とした。

「だれにも見られないように」
「うん」

ハリーが教室を出て行く。見届けたあと、前の席に向かって、「もういいよ」と声をかけた。
三人掛けの机の下から、ごそごそと音がして、ロンが顔を出す。泣きそうな、情けない顔をしているものの、「僕だって、絶対に、謝ったりしない」と意地を張って、長い足をぶつけながら、椅子に座り直した。

「ロンも、本当は、淋しかったりして」
「淋しくなんかないよ」

首筋が、その髪のように赤くなっている。
彼女は苦笑しながら、妙に感心してしまった。喧嘩をする彼らが、新鮮だった。
その小さな身体に、といってもすでに彼女より大きな身体だが、いろんな感情が渦巻いているのだろう。悩み、足掻いている。
ふと、ネビルのいまにも泣き出しそうな目を思い出す。
自分にできるのは、見守ることくらいだ。
ハーマイオニーが置いていった、バタービールの瓶の蓋を開けると、ぷしゅっと空気が抜けるような音がする。ロンに差し出すと、彼は嬉しそうに受けとり、口をつけた。

「せっかくホグズミードへ行けたのに、私とチェスをしていても、楽しくなかったでしょう」
「ん、まぁね。でも、みんな出かけちゃって、きみしかいなかったから」

ロンの素直な感想に、彼女はびっくりして、でもすぐに笑ってしまった。

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