08 四人目の代表選手

風が冷たい。もう十一月だ。
彼女は、洟をすすり、近くの止まり木で眠りかけている、ふくろうの首を指でくすぐる。
日曜日の朝。ふくろう小屋は、眠気も覚めるほど冷え冷えとしていた。
掃除道具を片付け、大きな窓辺から白み始めた空を眺める。しばらくそのままでいたら、外の階段を駆け上がってくる足音が聞こえて、ハッフルパフ生のセドリック・ディゴリーが現れた。
手紙を出すには、ずいぶんと早い時間だ。

「おはよう」
「おはよう。手紙を出してもいいかな」
「どうぞ」
「ありがとう」

くしゃりと笑うセドリック。彼女の頭に、「好青年」という言葉が浮かぶ。

「代表選手のこと?」
「うん、父に報告するんだ」

セドリックがふくろうの足に手紙を括るのを、横で見ていた。子どもと言っても、六年生のセドリックの手は大きく、指は骨張って、どちらかというとすでに大人の男性に近い。
ふくろうが調整するかのように何度か羽を広げ、飛び立ったのを眺めながら、好青年は照れ笑いを浮かべて言った。

「父は、代表選手に僕が選ばれるとずっと信じていたから、昨夜は安心したよ」

彼女も笑みをこぼす。
彼の穏やかさや、思慮深さは、そんな父親に愛されてきた証のように思えた。そして彼も、父親の期待に当たり前のように応えている。自慢の息子にちがいないだろう。

「お父さんは、きっと喜ぶね」

うん、とうなづく、セドリックの表情が、笑みを浮かべてはいたがどこか複雑そうだったので、自分ときっと同じことを考えているのだろう、と彼女は思った。
ホグワーツからもうひとり選ばれた、代表選手のことだ。


ハリーは、セドリックと一緒に、奥の部屋をあとにした。炎のゴブレットが四枚目の羊皮紙を吐き出し、ハリーの名前が呼ばれてから一時間ほどしか経っていなかったが、もうずっとあの部屋に閉じ込められていたかのような、疲労感があった。
大人たちは終始、ハリーを責めていた。まるでハリーが、自分で炎のゴブレットに名前を入れたと思っている。ダンブルドアの年齢線がある限り、ハリーはゴブレットに近づくこともできなかったのに、それをだれも信じようとはしなかった。
ムーディの言葉が、ハリーの胸を掻き乱していた。どうやったのか、やり方はわからないけれど、僕を殺すためにだれかが名前を入れたというのなら、心あたりはひとつしかない。
ヴォルデモート。彼はどこか遠い国で、ひとりで潜んでいるはずだ。でも、彼の仲間はいまも、いくらでも残っているだろう。

大広間に、生徒の姿はもうなかった。蝋燭が燃えて短くなり、くり抜きかぼちゃのニッと笑ったギザギザの歯を、不気味に光らせている。
ダンブルドアの席の正面にあった炎のゴブレットに駆け寄り、「だれが僕の名前が入れたんだ」と覗き込んで叫びたかったが、ゴブレットも下げられた後だ。
ゴブレットを置いていた椅子に、彼女がぽつん、と座っていた。
ふたりを見て、「おつかれさま」と声をかけてくる。今夜のことを、彼女はどう思っているのだろう。

「ダンブルドアから伝言だよ」

セドリックがハリーの前に出て、愛想よく言った。

「今夜は、バグマンさんが泊まるから、部屋を用意してくれって」
「クラウチさんは?」
「役所に帰るって言っていたよ」
「そう」

わかった、と立ち上がる彼女。ハリーとセドリックの背後から、ちょうどそのルード・バグマン氏が飛び出してきた。
ハリーが四人目の代表選手に選ばれて唯一、賛成的な人物だった。いまだ興奮冷めやらぬ様子で、ハリーとセドリックのあいだに割りこみ、「面白くなってきたな、な? 諸君」と親しげに肩を抱き寄せてくる。
バグマン氏の、クイディッチ選手だったころは引っこんでいたであろう、せり出したお腹を、途方に暮れた目で眺めた。間違いなく、そう思っているのこのひとだけだ。
「ほらほら、大事な身体だ」と背中を押される。

「試合はもう始まってるぞ! ダンブルドアはああ言っていたが、寮生との祝杯もほどほどに、早く寝なきゃいかん」

大広間から追い出されるようにハリーたちが玄関ホールへ抜けたとき、「教えてくれよ」とセドリックの声が上から降ってきた。松明の明かりに照らされる彼は、やはり死角なしのハンサムな顔立ちをしている。

「一体、どうやって、名前を入れたんだい」
「何度も言ったけど、僕は入れてない」

ハリーは好青年を見上げなくちゃいけない。

「ふーん。そうか……」

セドリックが信じていないのは、火を見るより明らかだった。

「いえ、私は」

大広間の奥から、彼女の声が聞こえてくる。バグマン氏と話しているのだろう。

「ギャンブルだけはするな、と祖母に言われてましたから」

その夜、寮でロンとちょっと嫌な感じの言い合いをしたあと、ハリーはまたあの夢を見た。
冷たい雨が止み、ずぶ濡れのハリーの髪を、彼女が丁寧に拭いてくれる。微笑みかけてくれる。
彼女とセドリックがふくろう小屋で話しているころ、ハリーはひとりベッドのなかで、寝ぼけ眼を枕に擦りつけた。
彼女は、僕を信じてくれるだろうか。
昨晩からずっしりと胸にのしかかって離れない不安な気持ちも、彼女が信じていてくれさえいればなんとか乗り越えられるかもしれない、とハリーは思う。

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