04 アルバム

歓迎会から一週間が過ぎた、最初の週末、ハリーは彼女を探して城中を巡っていた。図書館、ふくろう小屋、中庭、野菜畑、と仕事をしていそうな場所を順に見て回っていくが、彼女の姿はどこにもなかった。
彼女はいつも僕を見つけるのに、こちらが探しているときに限って、どこにいるのだろう。一年生の終わりにハグリッドがくれた、両親のアルバムを持て余し、ハリーは青空の下で途方にくれる。彼女に見せたら、喜ぶと思ったのだ。
せっかくアルバムを持って校庭に出たのだから、授業で会ったきりだし、ハグリッドに会いに行こう、と予定を変えることにした。
ハグリッドの小屋が見えてくるにつれて、小屋の前の切り株のあたりに、ハグリッドの大きな身体も見えてくる。かがんでいるようなので、「魔法生物飼育学」で飼育している、スクリュートがぎっしりと詰まっている木箱を持ち出しているのでないだろうか、とハリーは心配になった。青白い奇形のナメクジを思い出し、背筋に寒気のようなものが走る。
回り込むように近づきながら、ハグリッドはスクリュートではなく、彼女と話しているのだとわかった。
やっと見つけた。彼女がハグリッドを見上げながら、切り株に広げた大きな紙の上を指差している。

「ハリー」

こっちに来るハリーに気づき、彼女が声をかけてくる。ハグリッドがのっそりと振り向き、うれしそうな笑顔を見せた。

「なに見ているの?」

ハリーは、大きな紙を覗きこむ。馬小屋のようや設計図らしい線が、たくさん引かれている。
うーん、と彼女が首を傾げ、「楽しみが減ってしまうから、秘密」と言った。

ハグリッドがすぐに設計図を片付け、同じ切り株の上にお茶の用意をするあいだ、ハリーと彼女は、ファングと遊んでいた。
「口髭みたいに垂れた頬が可愛らしい」と言って彼女は、ファングの顔を両手で挟み、揺らす。ファングは舌を出し、うれしそうに尻尾を振っている。
彼女が手を休めると、「もう終わりなの?」とまだ構ってほしそうに、芝生の上に座りこんでいる彼女のひざにあごを乗せ、次第にウトウトしはじめた。
たしかに、気持ちのいい陽気だった。歓迎会の雨は、夏の置き土産だったかのように、気温が一気に下がっていた。それでもきょうみたいに晴れた日は、日向にじっといると日焼けの痛みを感じる。肌を冷ます、ひんやりとした風が気持ちよかった。
ハリーは、マルフォイの「白イタチ事件」を彼女に話した。

「ムーディさんは昔から、自分のルールで生きているひとだから、それを破ったマルフォイが許せなかったんだね」
「昔から?」
「私が闇祓いだったときから」
「闇祓い? きみが?」
「なんだ、ハリー。知らんかったのか」

お茶の用意を持って、ハグリッドが小屋から出てくる。「マルフォイには、それくらいのお灸を据えてやらにゃ」とハグリッドは顔をにやりとさせながら、お手製の、もはやその強度は凶器にもなりえるケーキも一緒に切り株に運んできた。
「新作だぞ」と嬉々として勧められるが、曖昧にそれを遠ざけながら、ハリーは紅茶に口をつける。彼女も気まずそうに、アイスコーヒーで喉を潤している。
「そういえば」とハグリッドがケーキを切り分けているのを見ないように、ハリーは言った。

「一昨日、シリウスから手紙が来たんだ」

手紙の内容を、ふたりに話す。話したくて仕方がなかったせいか、早口になってしまう。真剣に最後まで聞き終わったあとで彼らは、言い方はそれぞれに、「ハリーが心配するのもわかるけれど、シリウスがそう言ったなら、必ずここまで来るよ」といった意味合いの言葉を返した。むしろ、額の傷が痛むハリーのほうが、心配される始末だった。
「僕は平気だってば」ハリーは不満になる。

「来なくても大丈夫、って手紙をすぐに返したけれど、僕は、本当に困っているんだよ。シリウスに危険な真似をしてほしかったわけじゃない」
「心配するこたない、ハリー」
「どうして言い切れるのさ」

ハグリッドが彼女を見るので、ハリーも視線を移した。ひざで寝ているファングの頭に手を置きながら、「そうだね」と彼女が呟く。

「止めても無駄だろうから、諦めたほうが早い」

大騒ぎしているのは自分だけのような気がして、ハリーは口を尖らせた。ケーキを取り分けられた皿が、目の前に置かれる。
ただ素直な気持ちになると、シリウスおじさんが会いにきてくれるというのは、やはり頼もしく、ハリーはうれしかった。

「ねぇ、約束したよね」
「うん?」
「僕の父さんと、母さんのこと、話してくれるって」

申し訳なさそうに彼女は微笑む。

「そうだったね」

遠い場所を見つめ、なにを話そうか、と考え出す。ハリーがアルバムを出そうとしたとき、「ジェームズとリリーは、ホグワーツでいっちばん、お似合いのカップルだったなあ」とハグリッドが話しはじめている。

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