22 守られて、失って

あと何百回、何千回祈れば
私の願いは叶いますか


指の間を滑り落ちる砂のように
目の前で大切な人たちがバラバラになっていく



「ピーター!」


立っているのもやっとの足をなんとか動かし、ピーターを追うことに必死で、一緒に森に入ったはずのシリウスがいつの間にかいなくなっていることに、彼女は気づかない。
自分の息遣いが、やけに大きく聞こえる。
すでに道などなく、暗い森の中、気配だけを頼りにひたすら走る。

「待って、ピーター…!」


ただただ幸せを
みんなの幸せを



倒れて、そのまま朽ちかけている大木に手をつき、飛び越える。草木が密集しはじめるが、腕や身体で掻き分けて、かまわず突き進む。細い枝が彼女の頬や肩の傷を鞭のように打ち、血が飛び、激痛が走った。
膝が折れ、体勢が崩れる前に、足を踏み出し、また走る。身体が鉛のように重い。顔の横を汗が流れる。

「お願い、だから…!」

願いなど叶ったことがないのに、彼を止めるために、そんな言葉しか出てこない。


ガタガタな歯車なりに噛み合っていた日々が
ひたすらに



「逃げないでっ…!」


ひたすらに、愛おしいだけなのに


杖を奮った。彼女が放った青白い閃光が、奥深い森の暗闇で稲妻のように迸り、弾ける。閃光がぶつかり、もう一度、光が弾けた場所へ、身体ごと飛び込んだ。彼女から逃れようと、暴れているピーターの上に馬乗りになる。思うように力が入らず、ほとんど体重で彼を押さえつけた。
自分はどうしてこんなことをしているのだろう、という思いに、再び囚われる。
生きていることが、こんなにもつらい。


『――きみには生きてほしい…』


どこかで聞いた言葉が、よみがえる。
彼女は知っている。守られた命は、なにがあっても生きなければならない。
だからきっと、逃げられない。
どんな結末もこの目で、確かめなければならないのだろう。

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