17 決勝戦の敗者へ

クィディッチ競技場を離れる気になれず、こうこうと輝きながら沈んでいく夕日に、いつまでもしがみついていた。ドラコの手には、スニッチまであと少しというところでポッターに払い落とされた感触が、いまだに残っている。それに、あたりはこんなに静かなのに、ポッターがスニッチを取った瞬間に起った、爆発のような歓声が、耳障りな余韻を残していた。

「惜しかったね」

後ろからベンチを跨いで、彼女が現れる。ひとつ席を空けて、隣に座った。白のシャツブラウスは、夕日の光を浴びて、赤く染め上げられている。
決勝戦を終えてから、ドラコはユニフォームを着替えもせずに、ずっと競技場の観客席に座っていたから、試合の後片付けをする彼女が、さきほどから嫌でも目に入った。それだけ試合が盛り上がった証拠なのか、観客席はひどい有様だ。いくつもの足跡がくっきりとついた、千切れてボロボロになった応援用の旗や、だれかの靴が片方だけ、落ちていたりする。
自分のチームが優勝したときは、こんなふうにまでなったことはないだろう。

「食べる?」

皿に乗ったサンドイッチを、彼女が差し出してくる。ずっと後片付けをしていたはずなのに、いつの間に持ってきたのか、ドラコにはわからない。

「おまえは、うれしそうじゃないんだな」
「なにが?」

ドラコがなかなか手を出さないので、彼女はその皿を、自分とドラコのあいだに置いた。

「悔しくても、おなかは減るでしょう?」

彼女の言うとおり、緊張のせいで朝からろくなものを食べていなかったので、おなかは減っている。彼女のほうを見ないようにして、ドラコは皿の上のサンドイッチに手を伸ばす。
だが、空腹なはずなのに、口に運ぶまでがひどく遠い。

「グリフィンドールが優勝して、うれしくないのか」

スリザリン以外の寮生は、破壊的な喜びようであった。きっといまも、各寮の談話室では、お祭り騒ぎだろう。

「私はあまり、クィディッチに興味がないから」
「変なやつ」
「それ、よく言われた」

彼女の、なにを考えているのか、まったくわからない横顔の向こうには、だれもいない観客席がゆるく弧を描いて続いている。
視線を感じたのか、ふと、彼女がこちらを振り返り、目が合う。

「クィディッチは辞めるの?」
「は?」
「負けて、辞めちゃうのかなって」
「辞めるわけ…」
「ない?」

じっと見つめてくる目を、ドラコは睨み返す。
僕はポッターに負けたのだ。いま、それを本当に認めてしまった。

「僕は、まだ負けてない」

ならば意地でも、このまま引き下がるつもりはなかった。ポッターに負かされたままでいいわけがない。

「そう」

安心したかのように、彼女が微笑む。さあっと波が打ち寄せてくるような色香で満ち、ドラコは、はっとした。

「がんばってね」

すかさず返す言葉が見当たらず、「クィディッチに興味がないくせに!」となんとか発する。微笑む彼女から目を反らすように、大口をあけて、サンドイッチにかじりついた。
こんな安っぽいものが、とてつもなく美味しく感じられた。空腹だったからにちがいない、とドラコは思う。
ドラコがサンドイッチを食べているあいだ、彼女が見つめていた夕日は、そんなふたりから赤い顔を隠すように、山の裏側へゆっくりと沈んでいった。

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