14 守護霊の訓練

マクゴナガル先生のきれいに片付けられた机の上に、職員室に似つかわしくない、競技用の箒が寝かされていた。どこかで見覚えがある気がして、彼女の目に留まった。

「ファイアボルトですよ」

現存する箒の中で、世界一です、と、マクゴナガル先生は普段よりうっとりとした声で、それを教えてくれる。
ファイアボルト。箒の名前なんて、そもそも箒の見分けもつかない彼女だが、その名前は記憶に新しかった。漏れ鍋にいるあいだ、ハリーがただ硝子越しに眺めるためだけに、店まで通っていた箒だ。
ファイアボルトの柄は、木材とは思えないほど、燦然と輝いている。端には金文字で登録番号が書かれ、樺の小枝まで続く、すらりとした流線型はたしかに美しい。学校の箒と比べたら、優雅だし、乗り心地も良いのかもしれない。マクゴナガル先生も、すっかりこの箒の虜になってしまっているようだ。

「まさか、ハリーのために」

木っ端微塵になってしまったハリーの箒は、クィディッチの選手に推薦したマクゴナガル先生が、ハリーに買い与えたものだ。とはいえ、ファイアボルトはたしか、競技用の箒とはいえ、彼女も驚くほど値段が張る。
しかし先生は、「いいえ」と首を横に振った。

「たしかに、これは、ポッターに贈られてきた箒です」
「贈られてきた?」
「差出人はシリウス・ブラックです」

マクゴナガル先生の厳しい顔つきが、なぜか彼女の胸に痛かった。
昔、先生がその名前を口にするとき、だいたいは彼らの悪戯や悪ふざけに手を焼いていて、やはり顔をしかめていたが、常に一目を置き、言葉にできない愛情のようなものが込められていた。
いまはただ、憎むべき犯罪者の名前を口にしている。

「まだ推測ですが、これは呪い調べにかけなければなりません。まったく、どういうつもりで、こんなものを寄越したのか」

先生は重たいため息を吐く。彼女にも、答えようがなかった。
職員室の扉が、乱暴な音を立てて、勢いよく開かれる。まるで道場破りに乗り込んできたかのように、体格のよい男子生徒が、まっすぐ、ずんずんとマクゴナガル先生のほうにやってきた。
各々、自分の時間を過ごしていた先生たちも、何事かと目を丸くする。

「マクゴナガル先生」

彼女の横に並ぶと、男子学生はそのまま先生の机を乗り越えそうなほど、前のめりになった。彼の全身からみなぎっている熱気は、外で積もってる雪など、一瞬で蒸発させてしまうだろう。

「ハリーに、この、このファイアボルトを、返してください」
「ウッド」

先生は、うんざりした様子で言った。「それはまだできない、と何度も話したはずですよ」
「どうしてですか。 ファイアボルトですよ、先生。ハリーがこれに乗れば、グリフィンドールは必ず優勝できるのに!」
「私も、今年こそグリフィンドールが優勝杯を手にすべきだと思います。ですが、大事なシーカーを、危険に晒すわけにもいきません」
「先生は、優勝杯とハリー、どちらが大事なんですか」

男子学生の迫力に、彼女は呆気にとられた。彼こそがおそらく、グリフィンドールのクィディッチチームを率いる、例のキャプテンなのだろう。噂どおり、クィディッチへの熱意はだれよりも強いらしい。
彼は、興奮しているせいではなく、真剣に優勝杯とハリーを天秤にかけている。そして、彼の天秤は、優勝杯に傾いているのだ。

「ポッターに決まっているでしょう。あなたは違うのですか?」

マクゴナガル先生の目が、相手を咎めるように厳しくなる。しかし、この男子学生は正直だった。

「俺は、スニッチを取ったあとだったら、ハリーが箒から振り落とされてもかまわないと思います」

突然、左腕に痛みが走った。男子学生が彼女の腕を掴んでいた。

「そしたら、きみがまた助けてくれるだろう?」
「いや、私は……」
「いい加減になさい、ウッド!」

職員室にマクゴナガル先生の叱咤が響く。
怒っているのに、やはり愛情を感じさせる。

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