冷酷非情の悪魔とその従者


「頼む、やめてくれ」
目の前で悲鳴さえ上げなくなった恋人は屈強な男に強姦されている。
「お願いします、やめてください」
エルヴィンの喉から絞り出された懇願は、埃っぽい部屋に溶けた。


−−−

「強姦事件多発、か」
「ああ。なんでも、恋人同士でいる男女を襲い、女性を強姦した後に殺し、更に侮辱的な行為をするそうだ。男性側は重症を負わされて、目の前で恋人を。……お前は恋人が居ただろう。用心しろよ。被害者の中には女性憲兵が二名いる。……不甲斐ないが、俺達はまだ事件は解決の糸口さえ掴めていない状況だからな」
「……で、それを調査兵団(おれたち)にも手助けして欲しい……と」
「……話が早くて助かる」
「俺達は慢性的な人手不足なんだぞ」

憲兵団の師団長であるナイルと定期的に会うため、こういった街での事件は大体把握している。人手不足というワードにナイルは一度言葉を飲んだが、エルヴィンにこっそり言った。
「……こちらの資金から、一部だが……調査兵団を支援させてもらう」
「……悪い師団長様だ」
「うるさい、俺達も必死なんだ。家族にも危害が加わるかもしれない。なによりお前も愛する女を護りたいなら」
それを聞いたエルヴィンは、思い出したかのようにナイルの言葉を遮り、「ところで、マリーと子供達は元気か?」と切り出し、またナイルになんとも言えない、複雑な表情をさせた。

−−−

「という訳だ」
「……という訳だ、じゃないですよ」
「なにか不満か?」
「ええ、いや、不満と言いますか……」

サラはエルヴィンと共に街の路地にいた。
珍しくエルヴィンに誘われて街に出かけて浮き足立っていたのに、街の強姦事件について話されてサラはほとほと呆れていた。

「……まあいいです、団長のご命令とあらば、兵士である限り従います」
「いい心掛けだ」

エルヴィンとはいつも互いに暗黙の了解のような決まりがあった。
どんな状況であれ、恋人でありながらも、一兵団の長とその部下である、と。いざと言う時に判断を誤ることにならないように、二人は言葉や態度を滅多に甘くしない。
これでいい。エルヴィンの傍に居られるなら。


「強姦魔もなかなかいい趣味をしているな。わざわざ恋人同士の男女を狙い、男の前で犯すんだ。さぞ気分がいいだろうな」
「……えっ、んっ、」

久しぶりのキスだった。エルヴィンに壁に追い詰められ、戸惑いながらも背中に手を回してエルヴィンを受け入れる。

「……何恥ずかしがってる。もっと舌を出せ」
「ん、は、らって、」

会話の余裕もないキス。サラは夢中だったが、エルヴィンの背後に黒い影を見つけて口内で声を上げる。エルヴィンは離れ、ただ一言「分かってる」と言って、背後に近付いて腕を振り下ろす男に頭を強く殴られ、次にサラも頭を殴られて気を失った。

−−−

「はあっ、はあっ、あ゛」
「ん゛、ぐ、ぅ」

気が付くとサラは、毛深くて、無駄に腕っ節は良い、腹の出た汚い男に犯されていた。頭は揺られて鈍痛が走り、吐き気がする。吐き気の要因は状況的に様々だが、今は目の前で揺れる唾液が頬に落ちたことが気持ち悪くてまた嘔吐く。

「あ゛ー、姉ちゃん、調査兵だろ……?っふぅ、やっぱり筋肉があるからか、締まりがいいな。なあ、お前、も、そう思うから一緒に、いるんだろ?」

話を振った先にはエルヴィンが居て、階段の手すりに括り付けられたまま、

「……エル、ヴィ……ン?」

こちらを見て、笑っていた。
エルヴィンの笑みを目に入れた瞬間、サラは見慣れているはずのその表情で達した。

「っはあ!?マジか姉ちゃん……ビッチにも程があるぜ、犯されてイキやがった!どのチンポでもいいってよ!残念だったなァ!ガハハ!!」

強姦魔の男がエルヴィンを笑い飛ばすが、エルヴィンはそちらを見ないままサラを見つめている。勃起してる。興奮、しているんだ、この状況に。

「……いや、助けてください、いやぁ!」
「今更じゃねえか、もうカラダの相性はバッチリだって証明されたろ?」
「いやあぁぁあぁぁ!!」

サラはエルヴィンに見えるように、聞こえるように、男に抵抗をしてみせる。

ああ、だめ、だめ、エルヴィン、助けて、またイッちゃう、知らない男のペニスでイッ、

「ん゛、きゃ、ぅ……っ」
「はは!またイッちまったぞ」

男に涙を舐められ、悲鳴を上げた。興奮した男にシャツは破られ、露出した腋をフガフガと鳴きながら舐めたり嗅いだりする。

エルヴィンが見てる、エルヴィン、エルヴィン、もっと見て、エルヴィン、

サラはまた達した。何度も、エルヴィンを見つめながら。
頭から出血して、片目しか開けられていないが、しっかりと乱れるサラを見ている彼。初めは笑っていたが、今は何とも言えない、悲しいような、怒りを含んでいるような、そんな表情でこちらを見つめ返している。


私は、エルヴィンを愛してる。
彼も、私を愛している。


「頼む、やめてくれ」
部屋にポツリと、エルヴィンの声が響く。
「お願いします、やめてください」
力無くエルヴィンを見る。男は気が付いていないのか、エルヴィンの腕の縄は既に解けている。

「はあ、はあ、はあっ、あ゛ー、イくぞ、膣内(ナカ)に出すからな、俺のオンナになるんだぞ、特別だからな、イく、イ」

男が達する瞬間。
エルヴィンが男の背後から頭に蹴りを入れて吹き飛ばす場面を黙って見ていた。手には縄が握られており、エルヴィンが倒れた男に近付いて頭を踏み付けると、小物感のある短い悲鳴が聞こえた。

「……充分楽しませてもらった。ありがとう」
「ひいいっ!!」

鈍い音が鳴り、目の前で男が鎮圧される。
エルヴィンは手際よく男を縛り上げ、こちらに近付いてきた。


「……何回イッたんだ」
「……分かんない、」
「分かる限りでは七回だな」

エルヴィンは上着を脱ぎ捨て、ワイシャツのボタンを開けた。

「ちょっと、怪我……」
「もう今更だろう、たまには良いんじゃないか?それに……」

布越しに宛てがわれるのは、性癖を刺激され、我慢が限界のペニス。

「……変態、」

サラは近づいたエルヴィンの頬に流れる血液を舐め、拘束されたまま、酷く昂った彼を受け入れた。

−−−

後日、街の新聞に大きく報道されていたのは、一般市民の勇敢な行動や、壁内の政治についてだった。

エルヴィンとその恋人はというと、その命尽きるまで共に連れ添った。二人は命尽きた後も、冷酷非情な悪魔と、その従者だと一部で噂は絶えることは無かったとか。



-Fin-



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