貴方の香りに包まれて


交際から六ヶ月弱。私は今日、エルヴィンさんの家に初めてお泊まりする。
余り積極的でない私に合わせて、ゆっくりと愛を育んできた私達は未だにキスや手を繋いだりするだけ。それ以上はまだ……。人生で一度も……経験がない。

エルヴィンさんは年上の大人な人で、私とは十歳離れている。キス以上のことをしていないことに対して周りからは「アンタのことどうでもいいんじゃない?」って言われるけど、そうなのかな……?どうでもいいのかな……歳も離れてるし、そういう相手に見られてないとか?私がそういう雰囲気になっても躱してるから呆れちゃったとか……?

そう不安になってきていた時。

「サラが嫌でなければ、来週末はうちに泊まりに来ないか?」

そう誘われた。嫌じゃない、嬉しい。
その気持ちとは別にこれを断ってしまったら、今度こそ本当に捨てられてしまう気がするから……私は二つ返事でOKした。

−−−

エルヴィンさんの自宅に着き、インターホンを鳴らせば直ぐにドアが開いた。

「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます」
「今日は一段とお洒落だな。緊張しているのか?」

額にキスをされ、手を引かれて部屋の中へ。

「はい、だいぶ……ドキドキして、この一週間ずっと服が決まらなくて」

……下着も、何が好みとか分からないから、とりあえず万人受けしそうな優しいピンクの色のセット下着を持ってきた。
期待してるわけじゃない、何もしないかもしれないけど念の為に。

「可愛いな。……会いたかったよ」

抱き締められると香るエルヴィンさんの匂い。私はこの香りが大好きでこっそり息をすいこむ。

「サラの匂いは安心するな……なのに脈は速くなってどうしようもないくらい愛しく思ってしまう」

似たような思考につい笑ってしまう。
抱き締められて首筋にキスをされると、くすぐったくて予想以上に甘ったるい声が一瞬出てしまい体を固くしてすぐに離れた。

「あ……いや、その……」
「いいよ、構えるな。無理にどうにかしてやろうなんて考えてない。君の気持ちが大事だ」

また額にキスをしてエルヴィンさんは私をリビングに通す。

それからは何事も無かったかのようにゆったりとした時間を過ごした。

二人で料理をしたり、抱きかかえられてそのままエルヴィンさんが「キスしたい」と顎を上げるから、私からエルヴィンさんに初めてキスをした。お泊まりって、こんなに距離が近くなるんだ。大好きなエルヴィンさんの匂いがする空間で、大好きなエルヴィンさんの匂いを直に感じながら私は幸せに包まれた。

シャワーを浴びていると、オシャレなボトルに入ったシャンプーがあった。使ってもいいと言われたシャンプーとコンディショナーを使えば、彼の香りに包まれる。

また深く深呼吸する。
いい、香り。エルヴィンさんの香り。

なんだか下半身がキュンとしてしまって、胸もドキドキする。早くエルヴィンさんに触れたい、かも。

バスルームから出て、髪を乾かしてから寝室へ向かうと、間接照明の中で本を読むエルヴィンさんがいた。

「……眼鏡?」
「おかえり。ああ、こんな薄暗い中で読むからだろうな。だが止められないんだよ……眠気が来たらそのまま横になれるからね。……早く来て、待ってたんだ」

パタンと本を閉じて、眼鏡をサイドテーブルに置いた。両手を広げているそこに向かい、膝をベッドに掛ければ直ぐに体を引かれて抱き締められる。

「サラから、私のシャンプーの香りがする。不思議だな」
「この香り好きです、私……」

体を少し離したエルヴィンの真剣な眼差しと視線が絡み、ゆっくりと、私の様子を窺うかのように、互いの唇を見たままで間合いを詰めていく。
しっとりとした熱い吐息が触れる直前で止まる。

早く、早くキスして。エルヴィンさん。

黙ったままで暫く額を合わせたままでいる。
身体が少し焦れったくなってピクリと動いた。

「エルヴィンさ……ちゅ……して」

エルヴィンさんの髪を撫でて、項にかけて降りていくと、短く整えられた髪で手のひらが擽ったい。

「エルヴィンさん……」
「私もしたいんだが……自分の寝室に、自分の匂いをさせる愛する人が居て……こうして目の前でキスをせがむ姿に欲情している。今キスをしてしまえば衝動を抑えられる自信が無いよ」

なんだか少し辛そうに目を伏せて、上目遣いな彼に胸が苦しくなった。

「……抑えないでください、私に沢山教えて下さい……。エルヴィンさんの息遣いも、言葉も、表情も全部知りたい……です」

何言ってるんだろう私。
でもエルヴィンさんは馬鹿にしたりせずに安心したみたいに小さく笑って私にキスしてくれた。

いっぱいキスしたけど、大人達が愛を深く感じ合う前のキスはまた一段と雰囲気も違って。愛してるって言わなくても、よりダイレクトに感じて気持ちいい。

これから何回私達は交わっては愛を深め合うんだろう。

私はベッドに寝かされて、エルヴィンさんの香りに包まれながら今まで感じた中で更に深い愛を受け取るのだった。

-Fin-



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