日が沈みかけ、海辺からの風も冷える頃。カラン、と扉の鈴が静かに鳴った。そろそろ店仕舞いをしようと店内を整頓していた彼女は慌てて扉のほうへと向く。

「いらっしゃ、……!」
「…久方振りだな。島も此処も何も変わっていない」

扉が小さく感じられる程に存在感のある男は帽子を取り、一歩、また一歩と近付きながら自身よりも小さな彼女から目を離さない。

「…なんで…」
「何故?おれが此処へ来るのに理由はひとつしかないだろう」
「何も言わず、何年も放置をしていたのにですか」
「それはすまなかった。随分と寂しい思いをさせた」

二人の距離は狭まり、あと一歩。

「ふむ…大分遅くなってしまったが、約束を果たそう」
「約束って」
「無論、ぬしを奪うことだ」




天辺に月が昇る頃、いつまでも連絡を寄越さないカフェを経営している友人を探しにきた人物が見たのは空っぽな店内。
争われた形跡も無く、彼女が自分から出て行ったのだろうかと首を傾げ、視界に入った卓上の紙を見つけた。
そこには店の譲渡についてとこれからのことが記されている。読み進めた最後に彼女のサインと夢が叶ったの!とこれまでの筆跡とは比べ物にならない程に楽しそうな筆跡が残され、友人は笑みを零した。



「あの手紙はいつ書いた?」
「…鷹の目さんが約束をしてくれた日に、です。貴方なら約束を果たしてくれるだろうなって思っていました」
「そうか…」

彼女は約束を信じ、手紙を記し、必要最低限のもので店を経営していたことを語る。鷹の目と呼ばれた男は信じ待っていた彼女に向けて口角を上げ、小さな頭を撫でた。




2018.6.12 ただいま

またちまちま更新していきたい
- ナノ -