彼女はしっかり者で頼れる部下だ。おれが溜め込んでいた書類も数時間で片付けるほど優秀で、何でおれがやるべき仕事をそつなくこなすのか訊いてみたことがある。
彼女は照れながら「大将のためです」と言っていた。後から聞いた話だと、昇格の話もケって下に就きたいと上に頼み込んだそうだ。
…おれも単純だからね。オジサンながらも恋心を抱いて告白もした。そしてその場で彼女からも『告白』された。


「私、好血症なんです。それでも…好きだと言ってくれますか?」


…それから1ヶ月が過ぎた頃、相変わらず彼女は仕事をしてくれる。変わったのは関係と、昼休みの過ごし方。


「お疲れ様です、大将」

「あー…疲れた…」

「ふふ、あとの書類は私が片付けましょうか?」

「名前ちゃんにこれ以上押し付けたら上が恐い。おれがやる…」

「頑張って下さい」

「ん、…じゃあお昼行こうか?」

「…はい」


もう日課になった二人での昼食。小さめの会議室を借りて、名前ちゃんが二人分作ってきてくれたお弁当を食べる。たわいない話をして、此処までは普通のカップルだ。

暫くして名前ちゃんがおずおずとおれを見上げる。


「…そんな物欲しそうなカオしちゃって」

「! すみません…」

「いーの。今、切るから待って」


ベストを脱いで、ネクタイを外す。シャツをはだけさせて海楼石を仕込んであるナイフで胸元をスッと切る。血が垂れた。


「…おいで、名前」


膝をポンポンと叩くと不安そうにしながらも近付いて膝に座る。


「…た、いしょ…」

「大将じゃなくて名前呼びながら、でしょ?」

「…はい、クザンさん…あの、いただきます」


名前ちゃんが胸元に口付ける。垂れた血を丁寧に舐めとり、吸い付く。静かな会議室にリップ音が響いた。


「…その舐め方とカオ、欲情する…おれの血美味しい?」

「んっ…はい、とても…!」

「味見してみようか」

「え…?」


見上げた名前の後頭部を押さえつけて口付け、腰を抱え込む。


「ぅ…?!」


舌をねじ込めば血の味が広がった。逃げる舌を絡ませ、口内を舐め回す。


「ふ、ぅ…ん、ん」


慣れてきたのか、名前は自ら抱き付いて絡ませる。味がなくなって離れると、静かな部屋に二人の荒い息だけが響く。


「はあ…は…っ、クザンさん、今の…」

「あー、うん、今のはヤバいね」

「…お昼休み終わりますよ」

「…じゃあ、終わるまで」


もう一回、と軽く口付けて名前を傷へと誘導した。





それは麻薬のように痺れる味。
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