彼は涙さえ蒸発するほどの火を纏い、一面を火の海にした。



Conflagration



「…名前」

「…エース…」


名前を呼んで抱き締めればいつもと違う香りがした。
抱き締められたのに、抱き返しはしなかった。


「…オイ、何だよ、この甘い香り。香水は嫌いだって言ってただろ」

「…うん。嫌いよ。でも、仕方なかったの」

「何が?」

「ごめんねエース。大好きよエース」

「名前」

「綺麗な体で抱き締めたいけれど、もう無理だわ」


"綺麗な体"この言葉で何があったかを理解したエースは名前から離れた。


「ごめんねエース。大好きよエース…」

「…誰にやられたんだ」

「言えないわ」

「言え!」


肩を揺さ振れば涙が一粒落ちた。それ以外はもう枯れて果てたのか、何も出なかった。


「だめ、エース。好き、愛してる…」

「言え、言え…!おれが、」

名前はそっと人差し指をエースの唇に当て、それ以上はダメ、と制止した。


「全部、燃やして」


それから何をしたのか彼は覚えていない。かすかに記憶にあるのはオレンジ色の自身の火だけ。俯けば白い、所々焦げ茶の物体が落ちていた。


「名前…」


名を呼んでも辺りに人はいない。



おれが、
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