名前が海賊に攫われて1ヶ月が経った。1ヶ月も経った。足取りが掴めないのは無名の海賊だったからか。


「スモーカーさん…やっぱりダメです…」

「…あァ」


大佐の肩書きはどうやら弱いらしい。本部に問い合わせてもまだ何もわからないと言いやがるうえに捜索に手は貸せないときたもんだ。


「クソッ!」


たしぎと部下は協力してはくれているがこの広い世界じゃ微力だろう。…焦りだけが募る。


「スモーカー君、少しは休んだらどうかしら」

「…うるせェ」

「部下を気遣えないなんて大佐失格よ。ヒナ失望」


わかってる、わかっているが…!


「…わかって……」

「スモーカー君?!」

「スモーカーさん!!」


…ふっと視界が暗転した。


…………………………


スモーカーさんが倒れて3日が過ぎた。無理をしすぎですよ…!
時折苦しそうに名前さんの名前を呼ぶ。


「…っうえ…」


涙が溢れて止まらない。
どうか無事でいて下さい。どうかどうか、神様…。


…………………………


「名前が見つかった」


おれが意識取り戻した時、ヒナはそう言った。
漂流していた海賊船を偶然にも偵察中のヒナが見つけ、捜索をした所、在ったという。


「言葉の意味は、わかるでしょう」


…それでも。
震えそうな体を抑えてヒナが持って帰ってきたという海賊船に足を進める。


「そのままにしてあるけど、取り乱さないでね」

「…わかってる」

「スモーカーさんっ」

「…やめておきなさい」


ヒナはたしぎを止めた。
おれは一人、静かな船内を進む。

…教えられてた部屋は鉄格子があり、牢屋だということはよくわかった。
思い切って扉を開けば。


「…名前…」


船の揺れと同じように揺れる名前が在った。

不思議と動揺はなかった。ただ名前が揺られている…そう、感じただけだった。
いつも見下ろしていたお前を見上げるのは変な感じだな…そう呟きながらロープを外し、名前を降ろしてやる。
久々に抱いた体は驚くほど軽かった。


…………………………


「…名前は死後15日前後みたいよ」


ヒナが検死の結果を話しているが頭がそれを理解しない。


「そんな…っ」

「…ええ。本部の協力があったなら助かったかもしれない…」

「そんなことって…」

「あの船の船員の行方は調べてる。…船内から名前のメモが見つかったの」

「…読んでくれ」

「…『私はスモーカーのもの。誰にも汚させたくなかった。なかったのにごめんなさい。私を許して下さい。スモーカーを愛していました。ごめんなさい、ありがとう。名前』」


部屋にはたしぎの嗚咽が響く。ヒナは俯いてメモを寄越した。


「……名前」


おれはなんて無力なんだろうか。

一粒の雫がメモを濡らし最期の言葉を歪ませた。

愛している、愛しているのに。


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