「嗚呼、綺麗だ…」


鷹の目は恍惚とした表情で手に持っている目玉を舐める。
かつて恋人だった者。
かつて恋人だった物。

狂おしく愛おしく、自ら手を下した者。物。

鷹の目は哀愁漂う表情で手に持っている目玉に口付ける。
かつて愛し愛された物。
かつて愛し愛された者。


『ミホーク…』


…この目玉から溢れ出た涙。それがおれを拒絶しているようで耐えられなかった。

窓際に追い込んだ名前の何と弱々しいことよ。震える口から出た言の葉は『愛してる』…おれも、だ。
せめての罪滅ぼしのため一撃で。もう慣れているはずの赤い血が何とも色鮮やかだった。

事切れた名前を見やると目が開いている。
おれが好きだと言った目はもう光を追わない。おれでさえも映さない。
…何と、弱々しい脆弱な人間よ。


ミホークはナイフを使い、傷付けないよう丁寧に目玉をえぐり出す。
目玉に付着した血を舐めとり、口付けた。
愛おしく、愛おしく。


「…名前」


名を呼んでも答えぬ亡骸を眺め言う。


「何処ぞの国には屍蝋というものがあるそうだ。…名前もなってみるか」


一人芝居。
椅子に座りまだ言う。


「…このまま此処に居ても仕方なかろう。しかし…動けぬな、名前は」


手のひらで目玉を転がし笑う。…何が可笑しいのか、ミホーク自身わからなかった。


「…ふむ、良い考えがある」


ひとしきり笑った後、ミホークは横たわる名前に近付き跪いた。


「名前、おれの一部となれ」


目玉を顔の空洞に見せ付け、口へと放り込む。
一噛み、二噛み…グチャグチャと厭な音が鳴り響くがミホークは気にしない。

そして…喉を鳴らして飲み込んだ。


「…何とも言えぬな。美味い物かと想像していたが…」


亡骸の頭を撫で微笑む。

…嗚呼、愛おしい。


「…では、おれは行くとしよう。…ああ、すまない。名前も一緒だったな」


これからずっと、おれの一部として生きてゆけ。


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