ついてねェ〜〜〜…と、大きな溜息と共に愚痴を零したのは独特の髪型をした長身の男だった。その日の予報では晴れで、誰しも傘を所持せずに登校、下校時刻をほんの少し過ぎた頃には土砂降りになってそれぞれ濡れるのも構わずに足早に家へと向かっている。
そんな中、この男は濡れて髪型が崩れるのを恐れて屋根のある自転車置き場へと避難していた。


「…いやマジで…この土砂降りは無いわ〜…」


口から出た言葉はすぐに掻き消される程の土砂降りに二度目の溜息が出る。髪型を崩してまでも帰る理由は無い…が、早めに帰らなければ自身の母親が何かを言ってくるだろう。此処まで誰か迎えに来るとも思えず項垂れながら三度目の溜息が出た瞬間。


「…仗助くん」


土砂降りの中はっきりと聞こえたのは普段から意識している声だった。慌てて顔を上げれば紳士ものだろうか、大きめの真っ黒な傘を差す女性。


「仗助くんも傘持ってきてなかったの?」

「名前じゃねえッスか。見ての通りッスよ〜〜…。名前は傘持ってきてたのか?」

「まあね。なんとなく降りそうな、そんな気がしたから」


小さく笑った彼女は大きく出来た水溜りを軽く跳び越えると仗助に近付く。一歩、一歩と密かに想いを寄せる彼女が、近付く。
土砂降りに感謝しつつ、跳ね上がる心臓をどうにか押さえ付けようと深呼吸し、傘を畳んで隣に立った小さな相手を見下ろした。


「…アレッ?名前帰らないんスか」

「え?仗助くんとちょっとお話ししてから帰ろうかなって。一緒に帰るでしょ?」


深呼吸して少し落ち着いたはずの心臓が再び跳ねる。
一緒に、ということは無論相合傘になるわけで、それは思春期真っ只中の仗助に多大なるダメージを与えた。ね、と首を傾げた相手の仕草はトドメとなり、湯気が出そうな程真っ赤になった仗助は片手で顔を隠すしかなく。その行動に疑問を抱いた名前は学ランの裾を引っ張った。
瞬間、純情でシャイボーイな彼はその場で膝から崩れ落ち、心配した名前に背中をさすられ更に追い討ちを食らうこととなり暫く再起不能となったのは二人だけしか知らないお話。









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