今夜こそはと意気込んで扉の前に立つ女が一人。手には色彩豊かなフルーツと白ワインが一緒に入ったグラスが握られ、手の体温で雫が作られグラスを伝う。彼女がギアッチョと一言声をかければ無言で扉が開かれ、仮眠室内へと誘われる。

「今日はマチェドニアもどき作ってみたの。あ、作ったと言っても殆ど切ったってだけなんだけど」
「おォ…ワインはどれ使ったンだ?」
「プロシュートが良いワイン持ってたから使わせてもらっちゃった。上等な白ワインよ!」

話しながらベッドへと腰掛ければグラスとフォークを手渡した。他のメンバーは自宅へと戻ったり任務へと出払ったり、名前が事前に頼み込んで二人きりになれるようにと手を尽くした結果の夜である。今夜こそは。

「…そういやよォ」

名前は頷く。程良くアルコールも回るだろうと思っていた拝借したワインは思いの外強く、名前の思考を鈍らせた。


時間が経つにつれ名前の頬が普段以上に赤みが強くなっていくのに気付いているギアッチョは内心ほくそ笑んでいる。普段飲む時は互いにそこまで強いものは選ばず、理性がしっかりと残るものばかりを選択してほろ酔いを楽しんだ。
名前が二人きりになれるようにと取った行動はギアッチョには筒抜けで、前日にはフルーツを揃え、普段そこまで使用しないグラニュー糖も購入していた時点で何を考えているのか手に取るように理解する。

二人きりになる時にはいつも奮発をして良いものを揃える彼女の性格を考えればワインも上等なものにするだろう。しかし、元々あまり嗜むことが無い二人にはワイン一本は不要で、そうなると自然とメンバーの誰か、特にプロシュートに分けてもらうことが妥当。考えを巡らせたギアッチョは即行動に出た。『もしも名前が来たらワインを度数強めのに変えてくれ』


「…名前?聞いとるかァ?」
「…んー、きいてる…、ふふ、なんだかいつも以上にふわふわするわ」

時間をかけて食べたフルーツの味も当初の目的ももう覚えてはいない。空になったグラスをサイドテーブルへと置いて二人はベッドへと身を投げ出し、心地良いのか頬が緩みっぱなしの名前はギアッチョの腕枕で彼の話をぼんやり聞いていた。
暫くすれば二人の距離は更に縮まり、唇が重なる。同じ香りのする唇が深く重なるとギアッチョは彼女に覆い被さり、ねちっこく、時折噛みつくように貪った。

「ん、ン…っ、ぎ、ぁ」

応えるように彼の首へと腕を伸ばし自らの唇を押し付け、体を這う手に身を捩る。ふわふわした思考は名前を溺れさせ、これから与えられる快楽を覚えている体は熱を持って。息が乱れていく二人は軋むベッドへと沈んでいった。







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