「エース隊長、これから宜しくお願いします」


エースは冷や汗を流しながら自らの隊に入隊した名前を見下ろして思った。
最悪だ、と。


「…お、おう…宜しくな…」


とりあえずの挨拶はしたものの、間が持たない。
エースは名前が苦手だ。まず、何を考えているのかわからない。それから会話が続かない。何にせよ、どう扱えばいいのかわからない。


「……」

「…えっ…と、部屋は隣みたいだな!」

「…はい」

「……あー…」


会話が途切れて後頭部を掻くエース。名前はというと、無言のままエースを見上げている。


「…えー…」

「…何やってんだよい」

「マルコ!ちょうど良かっ…じゃねぇ。ちょっと名前頼む」

「は?おい、」


んじゃ!と片手を挙げて猛ダッシュで逃げてくエース。用があったマルコは溜め息をついて名前に向き直る。


「名前?」

「はい、マルコ隊長」

「せっかく隣同士、同じ隊に入れてもらったのにまだそんななのかよい」

「…すみません…やっぱり私は不釣り合いです…」

「それがダメなんだ。オヤジも言ってただろい」

「うわっ」


両手でグシャグシャと頭を撫で、名前の髪を乱したところでマルコは戻って行った。

それから数日。
エースは出来る限りさりげなく名前を避けて過ごしていた。
起きる時間や食事の時間が重ならないよう調整したり、行動を予測して先回りしてみたり。


「…ハァ」


そんな神経を張り詰めた生活をしていれば自然と疲れるわけで。エースは自室のベッドで盛大に溜め息をつき、そのまま夢の世界へとダイブした。


…コンコン、とドアをノックする音で目覚める。


「ふあ…開いてるよ…」

「…失礼します」


部屋に入ってきた人物は此処数日避けていた名前だった。
エースはそれを理解するやガバッと起き上がり、ベッドの上で正座をした。


「…隊長…?」

「イヤ、その、なんだ…条件反射?」

「…何の条件反射ですか」

「ん?!…あ、何だろうな…」


気のせいか?会話が続いたような。


「そ、れで…どうしたんだ?」

「…隊長に、会いたくて」

「………………へっ!?」


エースはたっぷり間を置いて間抜けな声を出した。そして考える。
会いたくて?名前がおれに?いやいや今の聞き間違いで、あい、たくてとか?ナンダソレ。やっぱり会いたくて?会いたくて?!


「…それに最近お疲れのようなので…ケーキ、焼いてきました」

「…お、おう…?」

「…い…一緒に、食べても…いいですか…?」

「え…あ、いいけど…」


エースは一旦思考を停止させてテーブルを出した。椅子は一つしかないので、名前に椅子を、自身はベッドに座る。
テーブルの上にケーキと紅茶が並んだ。名前はケーキを一人分ずつ切り分ける。


「美味そうだな!」

「…味も自信ありますよ」

「お?言ったな。審査してやる」


一口目。…二口目。


「…ん、美味いな。びっくりした」

「…隊長を思って作りましたから」

「そうか、サンキュー。…え、おれを思って?」

「?…はい」


…再び思考が巡る。
やっぱりさっきのは聞き間違いじゃなくて、しかもこのケーキは疲れたおれのためで、そういえばこんなに会話してするのは初めてだな。ん?なんだ。これはどういうことだ?


「どういうこと?」


エースは素直な言葉を口にした。


「…どういうこと…。私はエース隊長のことが好きだということだと…思います」

「…名前がおれを…?」

「はい」

「……!!」


バクバクと心拍数が上がり、顔も赤くなってくエース。名前から目が離せなくなり、意図せずに見つめ合う。


「…名前」

「はい、エース隊長」


名前にしては珍しく、はっきりとした声で名を呼ぶ。茹で蛸になったエースはそんな声にも反応し、さらに赤くなった。


コンコン、……ガチャ。


「名前いるかよい?ちょっと話が…」

「うおああマルコ!!」

「…マルコ隊長…今、行きます」

「…お邪魔だったみたいだな?急ぎだ、名前は借りてくぞい。エース」

「借りてくも何も…!」


マルコは弱味を握ったというような笑みで名前と部屋を出て行った。

エースは。


「なん、…なんだよおれっ!こんな…嘘だろ…!」


やべぇ、ちょっと意識し始めた。

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