名前は暗い道を走っていた。息は上がり、足も言うことを聞かないのに、ただひたすら港を目指して。
港に着いた頃、名前の体は休息を求めて止まろうとしていた。小船まであと少し、そう思いながら体を無理矢理動かそうとするが、膝は地に落ちた。


「フッフッフ…」


背後から独特の笑い声が聞こえる。逃げなきゃ、逃げなきゃと焦る心と動かない体がもどかしい。


「動けないなら動かしてやろうか」

「いや…!」


腕が動き、引っ張られるように体が持ち上がる。やめてと叫んでも体は動いた。


「フッフッフ…!」

「…ドフラミンゴ…!」


憎々しげに名前を呼べば更に大きな声で笑った。ドフラミンゴはスタスタと名前に近寄り、見下ろす。倍近くある身長差から見下ろされた名前は恐怖しか感じなかった。


「人の顔見て逃げるなんてなァ…フフフ、ショックだったぜ?」

「っ…」


名前の本能が警告する。


(逃げなきゃ、逃げなきゃ…!)

「そんなに嫌いか?おれはこんなに一途に思っているのに」

「嘘つき。もう離して!」

「断る。名前、フッフッフッ!あァ、愛しいな…」

「ッ…!」


ドフラミンゴは名前の顎を掴み乱暴に口付けた。長い舌が侵食していき、息もつかせない程絡め捕る。


「ぅ、ふ…!」


元々息が上がっていた名前にとって、これは地獄だった。酸素を求めても阻まれ、意識が朦朧とし始める。


「ぅぅ…!…っは、はあ…ッ!」

「悪い悪い、苦しかったか?」


悪いなんて全く思っていないくせに!そう言うようにキッと睨み付けた。


「フフフッ、恐いなァ」

「…いたっ?!」


ドフラミンゴが手を下げた瞬間、名前はドサッと崩れ落ちた。


「ッ…この、…やろ…!」

「解放してやったぜ?逃げろよ」

「っ…」


逃げられるならとっくに逃げてるわ!…名前は心の中で叫ぶ。


「……名前?」

「…っ、う…るさいっ!もう!やだ…ッ!」

「オイオイ…泣くなよ」

「泣いてないっ!フラミンゴなんか嫌いだ!いっつもからかって…私に嫌がらせして…うぅ…!そんなにっ…」

「そんなに?」

「わた、しのことっ…嫌い…っ?」

「…何言ってんだ?好きだって言ってるじゃねェか」

「嘘、…っく…好きなら何でこんな…」

「これも一種の愛情表現、だ。…そんな風に思われていたとはな…」


ドフラミンゴは名前を抱き起こした。


「っ…!」

「あーあー…ひでェ顔になってるぜ?」

「誰のせいよ!」

「フフフッ!おれだな」

「わかってるなら言うな!……本当に愛情表現、なの…?」

「そうだ。歪んでて悪かったな。フッフッフッ…!」

「…歪みすぎでわかりません…」

「フフフ…!もうわかっただろ?」


ちゅ、と名前の額に口付けを落とし、立ち上がらせる。まだフラフラしているものの、大分落ち着いたようだった。


「…今、キス…」

「口にしたほうが良かったか?」

「……ッ!口はいい!あんな苦しいの嫌っ」

「…あァ、今までは激しいのばかりだったな。一応、こんなのも出来る…」

「や…!」


反射的に体を強ばらせ目を瞑る名前。しかし苦しい思いはしなかった。代わりに唇が柔らかい物で弄られる感覚が伝わる。


「…ん…?」

「フフフッ…」


目を開ければドフラミンゴのアップ。目が合う(気がする)とぬるっとした何かが名前の唇をなぞった。


「ッ…!」

「…名前、名前…そんな強張るなよ…今は乱暴にしねェから力抜け…」


囁くように名前を呼ばれて、恐る恐る力を抜く名前。それに満足したのか、リップ音を鳴らして何度も啄むように口付けた。今までのドフラミンゴからは想像出来ない態度に戸惑いながらも受け入れようと努力する。


「…ん、んん…」

「…名前も舌出せ」

「ん…ッ、ぅん…っふぁ…!」


舌も指も思考も全て、優しく絡め取られた。






愛情表現



(…っはあ…)
(フッフッフッ…!どうだ?初めての優しいキスは)
(ッ…ぁ…凄かった…腰、抜ける…っ)
(正直だな。腰は…まだ抜けてねェな。動けなくしてやるよ…)
(…え…)
(お前の舟はあれか)
(…!や、やだっ!舟でなんか…!)
(もう遅い)
(やめてぇええっ)
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