アーロンが仕切る海賊船が砲撃された。
無論アーロンが出るまでもなく魚人達が片付け、その戦利品を船に積み込み始める。
するとハチが大型犬でも入りそうな檻を持って船に戻り、アーロンの前に差し出した。


「こんなの見つけたが、どうする?アーロンさん」

「何だ?…女?」


檻に入っていたのは女だった。
衣服とは言えない布切れに身を包み、布切れから伸びる手足は病的なほど色白で、小さな顔には不釣り合いな大きい瞳が印象的だ。
その大きな瞳でアーロンを見上げる。


「ほう…上玉だな」

「ニュッ!お宝も少ないし、これが一番高価なんじゃねぇか」

「これから売られる所だったのか?シャハハハ!」


檻に近付いて鍵を壊し、扉を開けてやればのそのそと這い出てくる。


「ハチ、何か着るもの持って来い」

「ニュッ?!…女物なんかあったかなあ…」


ハチは腕組みをしながら船内に戻って行った。
アーロンは女を見下ろし話し掛ける。


「オイ女」

「…名前よ…」

「口は利けるみたいだな。名前、此処で飼ってやる」

「……」

「飼われて生きるか、今すぐ死ぬか選べ」


名前と名乗った女は座り込んだまま大きな瞳でアーロンを見上げた。そしてハッキリと。


「…飼われるのも殺されるのもごめんだわ」

「ほう、それじゃどうするんだ?」


こうするのよ、と名前は立ち上がりアーロンに向けて手を振り上げる。


「…!?」


とっさに避けるとグシャッと泥が落ちた。

名前は手を振り上げるや甲板を走り、海へと身を投げる。飼われるより殺されるより、海に沈んだほうがマシだと考えたのだ。


「泥…?あの女、能力者か…!」


アーロンは名前を追い、海へとダイブした。


…………………………


「シャーハッハッハッ!やっと目を覚ましたか」


名前が目を開けた時、見たくもない魚人の姿が一番に目についた。


「…何で」


助けたの、と言葉を続ける前にアーロンは手で口を塞ぐ。


「飼われるより殺されるより自害したほうがマシか?」


名前は当たり前じゃないと言うように睨みつける。


「シャハハハ…!気に入った!」

「っは…何、が…」

「その考え方だ。名前を一味に入れてやる。これならいいだろう」


確かに、海賊になれば飼われるわけでもない。名前が自害する理由もアーロンを攻撃する理由もなくなった。考えをまとめようと起き上がれば部屋に寝かされていたのだとわかる。


「…此処は」

「今日からお前の部屋だ。好きに使え」

「?!私はまだ入るなんて」

「それと着替えは椅子にかけてある」

「だから…」

「隣はおれの部屋だ。何かあればすぐに来い」

「ちょ…人の話を聞けー!」


泥化させた腕を振り上げ、アーロンを攻撃…したのだが。アーロンに触れる直前に泥化が解け、生身に戻ってしまった。


「な…」

「あの檻は海楼石で出来てたんだな。鉄格子を外して簡素だが腕輪を作った」


名前の腕には鉄の輪、アーロンが力ずくで曲げた輪がはめられている。輪を広げようとするが人間の力でどうにかなるものではなく。


「…外してよ」

「外したらまた攻撃するだろうが。信頼出来る関係になったら外してやる」

「それじゃあ一生外れないじゃん!」

「信頼関係を築こうと努力しやがれ!」


新しいクルーは強気な人間でアーロンにも臆さないらしいと、すぐに噂は広まった。
魚人達はそんな人間を一目見ようと名前の部屋に押し掛けてはアーロンに追い返されるのであった。




去ってまた一




(…毎日毎日、これじゃ見世物じゃない)
(追い返してやってるだろ)
(…見物料取ろうかしら)
(いいアイディアだな)
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