「これはなんですか?」


見覚えのないアイテムがテーブルに置かれているのを見つけると首を傾げてアーロンに問いかけた。


「ああ、それはフラットカッターっていうもんだ。葉巻吸う時に使う」

「葉巻?…アーロンさん、葉巻吸うの?」

「普段は吸わねえがな。この前取引があったろ。その時に貰ったんだ」

「へえ…吸ってるところ見てみたい!」


ああ、いいぞ、と頷くと箱を取り出して見せる。同じ大きさの葉巻が並べてあるが、それぞれ違った銘柄らしくリングが違う。どれがいい、と訊くと名前は迷わず水色のリングを指した。


「これ、アーロンさんと同じ色」

「シャハハ…!これはアシッドブロンディだな。持ってみろ」


名前が手に持つと甘い香りが漂う。


「…吸っても甘いの?」

「香りは強いが、そんなに甘くねえな」


箱を置いてソファーに深く腰掛けると太股の上に名前を座らせ、葉巻の先端をカッターで落とす。わくわくしながら手元を見ている名前にくつくつと笑ってマッチを取り出した。灰皿の上に先端を寄せるとマッチを擦って火をつけ、火が均等になるようにくるくる動かす。


「…名前も吸ってみるか?」

「遠慮します!」


唇に葉巻を挟むとゆっくりと吸い込み、名前に当たらないようにゆっくりと吐き出した。部屋の中に漂う甘い香りにけほ、と咳込む彼女を見て苦笑する。


「…やめるか」

「えっ、なんで」

「咳出たからな。葉巻は煙草と違って長時間楽しむものだ。慣れてねえと一緒にいるのもつらくなるだろ」

「…えー…すぐ慣れますよ。葉巻吸うアーロンさんカッコイイからもう少し見てみたいなあ…」


だめ?と見上げる名前に少し考えると空いている手で後頭部を押さえ、鼻が当たらないように軽く口付けた。一瞬で広がった香りに我慢出来きなかったのか顔を離して咳込む。


「けっほけほ、あま、」

「…今日はこれで終わりだ。満足にキスも出来ねえからな」


灰皿に葉巻を置くと名前を向き合い、頬を撫でた。嬉しそうな表情を見て自然と顔が綻ぶ。部屋に漂う香りが二人を包み、香りが消える頃には二つの寝息が響いた。
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