お頭が船に名前を乗せて数日が経った。…もしかしたら酒場で聞いた噂は本当なのかもしれない…。


「おう、名前!」

「…えっと、ヤソップさん?」

「当たりだ!暇だろう、射撃を見せてやる!」

「射撃?見るの初めてよ、ありがとう!」


ヤソップが船首にリンゴを置いて名前の隣で構えた。
まあ、確かにここ数日何事もなく(お頭が名前と一緒に居るとたまに叫び声が聞こえるくらいだ)航海は進んでる。
そろそろ名前も退屈になってきたんだろう。特に何かをするわけでもなく船内を歩き回っているのをよく見かけた。


「よし見てろよ!」

「はーい!」


…カチッ。


「…ん?」


…カチッ、カチッ。


「…弾が出ねー?!何でだ、ちゃんと手入れしてるぞ!」

「…もしかして…」


ヤソップが手入れをやり直そうと銃に手をかけた瞬間、名前がヤソップから離れた。


ドン!


「ぎゃー?!」

「きゃー!?」

「オイ、ヤソップ!名前!無事か!?」

「…お、おお、大丈夫だ。名前?」

「だ、大丈夫、大丈夫です…」

「そうか良かった…」


銃が暴発した。
…おかしい。今まで暴発することなんかなかったのに。やっぱり、あの噂は…


「オーイ!今の悲鳴何だ?!」

「お頭!ちょっと暴発しただけだ。名前は無事!」

「暴発?!ヤソップてめェ名前を危ないことに巻き込むんじゃねぇ!」

「す、すまん!」

「シャンクスさん!大丈夫です無事です!私のせいですから怒らないで…」


名前も噂のことを気にしているのか、申し訳なさそうに俯いた。ヤソップは真っ青になりながら立ち尽くし、お頭は慌てて名前に駆け寄る。


「…ごめんなさい…!」

「ばっ…!名前のせいじゃねぇよ!」

「…(かわいい…)」

「…オイお頭。何考えてんだ」

「! 勝手に人の思考を読むな!エスパーか!ヤソパーか!」

「なんだそれ?!」

「お、いいこと思いついたぞ名前!」

「え…」

「聞け野郎共ォ!!」


お頭がよく響く声で叫ぶと騒がしかった船内が静かになる。
「さっきヤソップの銃が暴発した!」

「…!」


何を言い出すんだこの人は…。縮こまる名前の肩を抱き、また叫ぶ。


「今までこんなことはなかった!記念すべき初暴発だ!宴の準備をしろー!!」


…本当に、何を言い出すんだこの人は。全員雄叫びを上げて宴の準備に取り掛かる。ヤソップも青ざめた表情は何処へやら。満面の笑みで仲間に加わった。
お頭は満足そうに笑って名前の頭を撫でる。


「…シャンクスさん…」

「気にするな!暗い顔はおれのクルーには向いてない。笑ってくれ」

「…はい…!」


…やっぱり凄いな。名前は泣きそうだった顔から笑顔に変わる。


「なにぼーっとしてんだ。ベックマンも手伝え、宴だ!」

「…ああ」


お頭直々の命令じゃ仕方ない。
ヤソップの初暴発を祝うとするか。




かんぱーい!


(お頭)
(ん?)
(…泣きそうになってる名前の顔見るの好きだろ)
(う…!)
(いじめるのもほどほどにな)
(い、いじめてなんか…)
(そうかい)


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