気まぐれに寄った島で仲間から離れた途端に雨に降られた。…ああ、確か午後から雨が降るとか言っていたな。仕方ない、濡れて帰るか。
踵を返し船に向かおうとすると、雨音に混じり歌声が聞こえてきた。
なんとなく、おれは声のする方へ向かう。

…街から離れてく。こんな人気の無い場所で一体誰が…?
周りは街から一変し林になり、それでも声は変わらずメロディーを奏でている。

……見つけた。
歌声の主は黒いドレスに身を包み、くるくると、時折ふわりと跳ねながら…。

雨に濡れながらも踊る彼女から目が離せない。ふと、ぴたりと歌声が止んだ。


「…どちら様?」

「おっと邪魔したな、すまん!おれはシャンクス。やー、いい歌だった!拍手を送りたいが一本なくてな」


がははと笑うと彼女はニッコリ笑ってドレスの裾をつまみ、お辞儀した。


「…聴いてくれてありがとう。海賊さん?」

「ん、そうだ。危害を加える気はないから安心してくれ」


右手を上げてひらひらと振る。すると彼女はおれに近付き見上げながら、


「…風邪ひきますよ?」


…少し、ズレたことを言った。


「はっはっは!それはお嬢さんもだろう!」

「…確かにそうね。私の名前は名前。すぐそこの家に住んでるんだけど…寄ってく?」

「…な、なんて大胆な…最近の子は大胆なのか…ショックだ…」

「…シャンクスさん?」

「…おっと失礼。そういう意味じゃないか?有り難いが、遠慮しておく。帰ったらちゃんと暖かくして、風邪に気を付けるんだぞ」

「? そう。シャンクスさんも風邪に気を付けてね」

「おれは海賊だから大丈夫だ。ありがとな」

「海賊って風邪ひかないのね…勉強になったわ。それじゃまた」


彼女はお辞儀して去って行った。
…また、会えるか…?そう思いながら船へと向かう。

その夜。
ルーが村にある酒場の主人と仲良くなったらしく、酒場で宴を開くことになった。
おれは皆が村人とどちらが多く呑めるかで競っているのを遠目で見て名前を思う。…名前のことが頭から離れない…


「お頭、アンタがアレに参加しないなんて珍しいな」

「…ベックマン…」

「雨に濡れて帰ってきて上の空。…風邪か?」

「おれが風邪ひくと思うか?」

「…それもそうだな」

「…それはどういう意味で受け取ったらいいんだ?」

「良い意味で頼む。で、何かあったのか?」

「…不思議な子に会った。雨ん中歌いながら踊って」

「お頭さん、名前のことかい」

「ん、じいさん知ってるのか」

「知ってるも何も…あの子は村の疫病神だからな…」

「…疫病神?」

「…そうだ。あの子が関わる人間全てに災いが及ぶ。…お頭さんも災難だな」

「よく聞くような話だな…てか待て、おれには何も起こってないぞ?偶然が重なっただけじゃないか?」

「…まだ、な。いずれわかるだろう。達者でな」


そう言い残すとじいさんは店を出てく。ベックマンを見やると…いつも通り。
このテの話はよくある。偶然が重なったのを責任転嫁、自分達は悪くないと主張して逃げるんだ。


「…お頭、こんなトコで覇気出すなよ」

「…!ああ、大丈夫だ。すまん。…ベックマン、」

「名前って子、攫ってもいいか?だろ」

「…何でわかった…」

「それくらいわかる。…名前って子は村の厄介者みたいだしな。まあ、いいんじゃないか」

「そうか!よし、じゃあ明日にでも口説いてくるわ!みんな呑め呑め宴だー!」


…全く、わかりやすい人だ。ベックマンは呟く。
宴は夜明けまで続き、翌日の酒場は『本日貸切』の札が貼られた。
皆が酒場で酔いつぶれている頃、シャンクスはシャワーを借りる。


「…名前は疫病神か。一体どんなことが起こっ…冷たァっ?!オイオイ、故障か…熱っ!!待て、急に熱くなるんじゃねェ!!あっちィ、火傷する!…お、元に……止まるな。シャワー止まるな!」


何故かシャワーが冷たくなったり熱くなったり、最終的には止まったり。
…どうなってるんだ?故障しているなら何か一言でも伝えてくれれば…
『あの子が関わる人間全てに災いが及ぶ』…じいさんの言葉が浮かぶ。今のが災い?…まさか。
おれは急いでシャワー室から出た。それから着替えて、酒場の棚に足をぶつけ、名前の家に向かう途中ずっこけた。
よくあること…と、黒猫が前を横切り、握り拳位の大きさの木の実が頭に落ちてきた。いってェ!!
…いやいや、これはただの偶然だ。そうこうしているうちに名前の家に着く。
…しまった、何て言って攫えばいいのか考えてなかった。
ドアの前で暫く考え込む。どうするべきか…


バンッ!!


「ぶっ!!?」

「きゃあ?!」


…ドアが勢い良く開いた…
















「…本当にごめんなさい…」

「いや、いいんだ。おれが突っ立っていたのが悪い」


勢い良く開いたドアにぶつかり、軽く鼻血を出したおれを家に上げて手当てをしてくれてる名前。
…イイ子なんだな。こんな子が疫病神なんて…


「…シャンクスさん、私の顔に何かついていますか?」

「ん?いや、何も。…名前」

「…はい」

「…この島は好きか?」

「…何故」

「昨日酒場でお前の悪い噂を聞いた。それから推測するに、村から離れたこの場所に住んでるのは…隔離されているからだろう」

「…そうですね。私は疫病神みたいですから」

「で、どうなんだ?好きか嫌いか」

「…どちらでもないですね。私は此処にいて不便だと感じたことはありませんし、最低限の食料はたまに誰かが持ってきてくれますから…」

「…そうか。何か大事なものとかあるか?」

「? 特にありません」

「…なら問題無いな」

「…え?」


椅子に座っていた名前を片腕で担ぎ上げる。それに驚いたのか少しジタバタしたがおれには痛くも痒くもない。


「欲しいものは奪う、それが海賊だ。おれは名前が気に入ったから名前を奪うことに決めた」

「…え?」


状況を把握してない名前。まあ、すぐ把握しろってのが無理だな。


「ん?この箱なんだ」

「…あ、洋服入ってます。タンスが無いので」

「そうか。これ持てるか?」

「はい…持てますが…」

「よし」


少し屈んで箱に手を伸ばさせ持たせ、持ったのを確認してまた立ち上がり、そのまま家を出て船へ向かった。
…今日はアイツら帰ってこないだろうし、船内の案内でもしてやるか。


「シャンクスさん」

「ん?」

「何で攫ったの?」



そりゃ、気に入ったからに決まっているだろう。


(家で言わなかったか?)
(言ってたかも)
(はっはっは!まぁ、これからよろしくぬぁあっ?!)
(きゃああっ!シャンクスさん、気を付けて下さい!)
(悪い…(何も無いのにこけた…))

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