私の好きな花はあの人の嫌いな花。




「クロコダイルさん」

「……」

「私、花が好きなんです」

「……」


仕事中にいきなり膝に乗ってきて何を言うかと思えば…くだらねぇ。


「知ってます?砂漠のド真ん中でも咲く花があるんですって。その花は少ない水でも一生懸命…」

「そんなくだらねぇ話をするならさっさと降りろ。邪魔だ」

「そんな睨まれたってめげませんよ。でね、その花、なんと取ってきちゃいました」

「……は?」

「ロビンに砂漠での歩き方教わって、昨日」

「…一人で行ったのか…」


通りで昨日は静かに過ごせたわけだ。はあぁあ…溜め息もデカくなる。


「さあさご覧あれ!こちら貴重な砂漠の花の」


大事そうに抱えてた箱の中身は花だったのか。…ああ、くだらねぇ。


「じゃーん!見て下さい!きれ…い」


クロコダイルの指先に触れた花は一瞬にして。


「どんな花もおれに触れりゃ枯れるしかねぇんだよ」

「…やっぱり、この花もダメかあ…」

「…あァ?」


水分のなくなった花を箱に戻し、肩を落としてクロコダイルの膝から降りる。


「オイ」

「…クロコダイルさんが触れても枯れない花を見つけたくて」

「はあ…おれは花なんかいらねぇ」

「私が花好きなんです!」

「知ってるか?迷惑って言葉の意味を」

「…ごめんなさい。それじゃ、失礼しました」


足早にクロコダイルの部屋を去ろうとすると、

ザァッ


「っ?!」

「誰が出て行っていいと言った?」


砂に巻き上げられ、再びクロコダイルの膝に戻った名前。


「…花が好き、か」

「…はい」

「おれが咲かせてやろう」

「え?…ッ?!」


顎を持ち上げ首筋に顔を埋める。細い首筋を吸い上げ、真っ赤な花を一輪。


「…この花なら枯れることもないな。キレイだ」

「っ、」

「消えそうになったらまた咲かせてやる」

「…ばか」




好きな花、嫌いな花


(…クロコダイルさん!)
(あ?)
(服に隠れません!)
(当たり前だろ。見える場所にやったんだ)
(わああ!)

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